作品タイトル不明
488.マルレーネ様だけじゃなかったわ
お迎えしたマルレーネ様に一礼するが、その後ろの方にも頭を下げる。ちらりと視線で促せば、頷いたフランクが侍従に指示を出した。静かに下がる彼は騎士に伝え、大急ぎで王宮へ走るでしょうね。
「ようこそお越しくださいました。マルレーネ様、カールハインツ様……ローレンツ様、ルイーゼ様」
全員のお名前を口にして、順番に問題がなかったか反芻する。王太后陛下は執政権があるから、国王陛下より先でいい……わよね? 咎められたらお招きした順番と答えましょう。
「出迎えありがとう、アマーリア夫人。そのように頭を下げないで、お腹が圧迫されてしまうわ」
手を借りると、隣のレオンがそわそわしていた。ローレンツ様と手を繋いだルイーゼ様が、走りだそうとして止められる。なるほど、それで手を繋いでいたのね。一番奥の客間へご案内し、ソファーを勧めた。私は近くに用意したロッキングチェアに腰を下ろす。
転ばないようイルゼがサポートし、リリーがクッションの当たる位置を調整した。お陰ですぽんと嵌ってちょうどいいわ。
「そんなに大きくなったのね。まさか……双子? 医師の診断はどうなっているの?」
目を丸くしたマルレーネ様は、矢継ぎ早に質問を繰り出す。椅子に寄り掛かってから、私はゆっくり一つずつ答えた。
「立派ですが、一人ですわ。心音は一人分と聞いています」
この世界で事前に男女の別を知る方法はない。エコーもないから当然だけれど、母親の顔立ちやお腹の張り具合で判断する程度ね。もっとも確率半分くらいの占い扱いだわ。実際に当たることもあるけれど、外れることも多かった。
男女どちらでもいいから、元気に生まれてほしい。
「初産なのよね……レオンがいるから、二人目のような気がしてしまうのよ」
おほほと笑うマルレーネ様の意見に、私も同意だった。産んでいなくてもレオンは私の義息子だ。愛しているし、お腹を痛めた子も同然だった。小さな椅子を運ばせて、しっかり隣に座るレオンは私の手を離さない。指先をきゅっと握って、やや遠慮がちなのが愛おしいわ。
レオンの手を握り直し、マルレーネ様が持参した手土産に頬を緩める。ご自分で作ったキャロットケーキですって。パウンドケーキは上に飾りやクリームがないから、手土産に最適よね。カットしてもらうと、中央部分にクリームが挟んであった。
「美味しそうですね」
きめが細かくて綺麗な焼き色がついたお菓子を口に運ぶ。ふわっとしていて、口に入れると僅かに洋酒の香りがした。説明によれば、アルコールを飛ばしてから塗ったらしい。妊婦だから気遣ってくださったのね。微笑んだところに、足音が聞こえた。
「ヘンリック様が戻られたみたい」
こんなに早いなんて、伝令の騎士はよほど馬術が得意なのね。