軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

489.張り合う二人の間で

ノックと同時に、返事より早く扉が開いた。後ろでフランクが額を押さえている。ヘンリック様はマルレーネ様に一礼し、カールハインツ様に苦言を呈した。

「国王陛下、事前のご連絡はありませんでしたが?」

嫌味っぽく「ここで何をしているんですか」を伝える夫に、苦笑いが浮かんだ。フォークに刺したケーキを食べるレオンは、頬がぱんぱんだ。一口食べて、私が目を離した隙にもう一口入れたのね。落ち着いて食べたらいいのに。

一人っ子のレオンだが、兄や姉代わりがいる。食事を奪い合ったことはないけれど、影響はあるのかしら。見ると、向かいのルイーゼ様も同じ状態だった。もしかして……どちらかが真似した?

「母上に誘われて、な。たまたま予定も空いていたし、書類も処理済みだった」

「そうですか、補佐官が青い顔で書類を処理していましたよ」

文句を言いながら、ヘンリック様は運ばれてきた椅子に腰掛ける。ソファーでは私から遠いので、近くに座りたかったみたい。カールハインツ様は仕事を放り出したの?

「あら、終わったと聞いたから連れてきたのに」

「終わっていました。その後で運ばれた書類が詰まっただけです」

マルレーネ様が困ったと滲ませれば、偏見のない事実をヘンリック様が告げる。すごくいい関係だと思うわ。王家と公爵家の間に確執がなければ、国の運営は楽になるもの。

「……アマーリアの笑顔は毒気が抜かれる」

ぼそっと呟いて、ヘンリック様は私の手を握った。それを見たレオンが、慌ててフォークを置いて反対側から手を伸ばす。片手ずつ預ければ、私は動けなくなった。

どちらを離しても泣きそう。ヘンリック様はこっそり泣くから可哀想だし、レオンも悲しそうにされると辛いわ。そのまま動かずにいたら、思わぬ人物が動いた。

「あぁ、ん」

ルイーゼ様だ。フォークに突き刺したケーキを、私の方へ差し出した。レオンじゃなくて? 私なの?! 驚いたから確認する。間違えて食べたら、可哀想だもの。

「私でいいのですか? ルイーゼ様」

「うん」

「やっ! ぼくの! ぼく、あげゆ」

手を離してフォークを拾い、私のお皿からケーキを刺した。大きいままなので、べろんと垂れているけれど……。

「あーん」

レオンの手から食べたいし、でもルイーゼ様も無視できない。食べやすいのはルイーゼ様の方よね。王太后陛下や国王陛下の前で、大きめの一切れを齧るのは難しい。あれこれ考えていると、ローレンツ様が笑い出した。

「すごい! 公爵夫人の一人勝ちだ」

きょとんとする私の前で、マルレーネ様が息子の頭をぽんと叩いた。痛くないよう、柔らかく。

「失礼よ。ルイーゼは私に頂戴。レオンも……ケーキを小さくしてあげて」

両方に指示を出し、言葉通りにルイーゼ様のフォークからケーキをもらう。マルレーネ様の 母親力(ははおやりょく) が高まってるわ。レオンは一度ケーキを皿に戻し、右手にフォークを持ったまま……左手でケーキを千切った。

「あーん」

二度目のあーんは、素手で掴んだケーキ。ありがたく頂くけれど……右手のフォークは気をつけてね。