作品タイトル不明
486.想像がつかない状況 ***SIDE公爵
フランクには帰ってから相談するつもりで、仕事に出かける。王宮の執務室で、子のいる文官達に声をかけた。部下だが、彼らは俺より年上だ。当然、様々な経験を重ねていた。
「赤子ですか? 夜中に泣くんですよ。俺は気付けなくて、後で怒られました」
「ああ、夜泣きだっけ? 妻はすぐ気づくんですよ。泣く直前に抱き上げることもあって、あれは敵いません」
最近取り入れたお茶の時間は、あっという間に経験談を披露する場になった。いつもなら切り上げる時間だが、指摘せずに先を促す。
「どうすればいいんだ?」
「正解はないです。夜泣きで一緒に起きても、寝てくださいと言われるし」
「あ、わかります。それなのに寝ていると怒られるんですよ」
「「同じだ」」
どの家も同じなのか? つまり、夜泣きで起きたら寝てろと言われ、寝ていたら怒られる……。確かに正解はないな。
「ケンプフェルト公爵夫人は優しそうですし、理不尽な八つ当たりは想像できません」
一人がアマーリアを褒めると、以前に顔を合わせた数人が同調する。そこへ報告書が持ち込まれた。お茶を片付ける侍従に後を任せ、執務机に戻る。
八つ当たりか。あの優しいアマーリアが、理不尽な言動をする? 想像もできないな。だが他の家では起きたのか。女性側の話も聞いてみたい。何か理由があったのなら、事前に対策することでアマーリアに気持ちよく過ごしてもらえる。
手元の書類に目を通しながら、頭の片隅で別のことを考えていた。積まれていた書類を半分ほど崩し、残りを明日に回して立ち上がる。
「ベルント、王太后陛下に面会の申請をしてくれ」
一礼して出ていく彼を見送り、また椅子に腰を下ろした。焦って立ち上がったはいいが、王太后陛下の返答が来るまで動けない。明日に回す予定の書類を手に取り、数枚処理した。
戻ったベルントが、これから会えると伝えた。ならばと立ち上がる。侍従が先に向かい、専属侍女のベッティーナ殿に伝えに行った。少しばかり遠回りして、ゆっくり時間をかけて向かう。駆けつけたい気持ちを呑み込み、部屋の扉をノックした。
許可されて顔を合わせた王太后陛下の顔色は明るい。
「アマーリア夫人が懐妊したと聞いて、お祝いを贈ったわ。彼女の体調はどう? 私が訪ねても構わないかしら」
妊婦になると外出を控えるのが貴族夫人だ。その間の社交はほとんど免除となる。いろいろ知識を得た今なら、それが妊婦と赤子の安全を考えての決め事と理解できた。出歩くことで、万が一があれば取り返しがつかないのだ。
「アマーリアも喜ぶでしょう」
事前に連絡するよう伝えれば、三日後に訪問すると返ってきた。着飾る必要はないので、問題ないだろう。
本来の目的である質問を切り出した。女性側の目線で夜泣きや育児の手伝いに関する知識を得る。手伝わないと嫌われるが、手を出し過ぎても怒られる? 赤子の世話はそんなに難しいのか。