作品タイトル不明
485.俺はまた失敗した ***SIDE公爵
失礼な態度をとっている自覚はあった。目を合わせられない上、寝る時も背を向けてしまう。だが、大切なアマーリアを悲しませるつもりはなかった。
「俺はまた、間違えたのか」
寝かしつけたレオンを間に挟んで、アマーリアに問われた。ここ最近の態度の理由だ。無理に急かすことをせず、彼女は辛抱強く待っている。口を開きかけては、情けなくて噤む繰り返しだった。
ようやく覚悟を決めて、説明を始める。
「初めて妊娠した女性と身近に接した。そんなに大変だと知らなかったから、驚いたんだ。立ち上がるのも苦労し、座る動作も苦しそうだ。それなのに当たり前のように受け止め、文句を言わない。俺は……」
アマーリアを尊敬した。と同時に、大嫌いだった母も同じ思いをして俺を生んだのだと気づく。金を使うだけしか能がない、そう蔑んだ人が……今のアマーリアと同じ苦しさに耐えて、腹の中の俺を育てた。
「正面から向き合う資格がない」
驚いた顔をした後、アマーリアはほわりと笑った。今まで見た彼女の微笑みより柔らかく、どこか透き通った表情だ。消えてしまいそうな気がして、咄嗟に手首を掴む。
「資格が足りないと思うのなら、努力して得たらいいわ」
こてりと首を傾けて疑問を示せば、丁寧に教えてくれた。資格は誰しも持っていない。そこから変わることを希望するなら、父親として生きる努力を重ねたらいい。アマーリアは穏やかな声で続けた。
「あなたには、身近に先輩がたくさんいるの。お父様も、フランクも、子を持つ文官の人達も。ヘンリック様が尋ねたら話をするし、手伝うでしょう。イルゼやマーサが私を支えるのと同じよ」
レオンに関しては、アマーリアが来るまで放置していた。妊娠した前妻を気遣ったことはないし、生まれた赤子に接した記憶もない。俺が初めてなら、アマーリアも初めてなのか。レオンのように意思疎通ができる状態にない、赤子と接するのは……二人とも未経験だった。
だが、人生の先輩がいる。アマーリアはそう表現した。関係を改善した皆が助けてくれるなら、初めてを楽しもう。知らないことは、恥ずかしくも恐ろしくもない。
「でも安心したわ。お腹が大きくなった私は見苦しいのかも、と心配していたの」
微笑んでいるのに、アマーリアが涙を溢したような痛みを覚える。ああ、俺は自分のことで手一杯で……また失敗した。アマーリアの方が不安なのに。
「神々しくて、この手から消えてしまいそうで、不安なくらいだ」
「あら、私は俗っぽいから……神様はお断りじゃないかしら」
冗談めかして口にするアマーリアは、化粧もしていないのに美しい。吸い寄せられるように顔を寄せ、唇を重ねた。ふと視線を落とした先に、大きなお腹が見える。このお腹はまだ大きくなると聞いた。
「……元気に生まれてきてくれ」
腹に手を置いて撫でる。母親という存在は、神々しくも温かい。こういう部分で、男は女に勝てないのだろうな。ふと、そんな考えが過った。