軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

482.ヘンリック様の様子がおかしい

お腹の膨らみが目立ち始めた頃から、ヘンリック様の様子がおかしい。今までと違い、出迎えで目を逸らす。手を握らない。それどころか、寝る時も背中を向けていた。

「あれかしら……お腹が膨らんだ姿で、女性として見られなくなった、とか」

ついぼやいてしまった。お父様は真剣に考えたあと、思わぬ言葉を口にする。

「直接聞いたらどうだ?」

「えええ?! 流石にそれは……」

それが出来るなら、お父様に愚痴っていないわ。溜め息混じりに説明すれば、肩を竦めた。

「リアらしくもない。聞いてスッキリすればいい。ヘンリック殿は浮気をするような人ではないだろう」

「浮気の心配はしないわ……」

ただ、距離を感じるだけよ。むっとして言い返せば、その勢いでヘンリック様に詰め寄ればいいと。正論なのはわかるけれど、気持ちは割り切れないの。

「だって、お腹が膨らんだのが気持ち悪いと言われたら?」

泣かないけれど、全力で顔に拳をお見舞いするわ。想像だけでムカムカしちゃう。

「そんなことを言う男に、お前は惚れたのか?」

どきっとした。ヘンリック様がそんな言葉を吐く姿が想像できない。不器用だけど、その分だけ誠実だった。感情や言葉を知らなくて、無礼に振る舞った時期もあったわ。でも自分の誤りを認めて、部下にもきちんと謝れる人だもの。

「それだけ反論できるなら、お前が一番わかっている。話をしなさい」

「……っ、ありがとう」

そうね。私の知るヘンリック様は、とにかく不器用なの。誠実で一生懸命で、仕事だけできて。でもプライベートは情けなくて可愛い。私が一番よく知っているわ。

お腹が大きくなった頃から、レオンとは別行動が増えた。昼間はオイゲンを含めた弟妹と過ごす。その寂しさからか、一緒にいる時間はひたすら張り付いていた。

言い聞かせる「お兄ちゃんだから」を使いたくないの。長子としての自覚を促すには、まだ幼過ぎた。甘えることを覚えたばかりなのに、我慢を押し付けるなんて出来ない。

「おかぁしゃま!」

積み木遊びが一段落して、すぐ走ってくる。手前で速度を落としたレオンは、にっこり笑った。両手を広げて微笑む私に、気遣いながら抱きつく。お腹も優しく触るなら大丈夫と教えた。そっと手を置いて、ゆっくり頬や体を当てる。

黒髪を撫でれば、神秘的な紫の瞳が細くなった。喉を鳴らす猫みたいだわ。

「あにょね。こんにゃの! ちゅくったの」

あらあら。また言葉が幼くなったわ。甘え足りないのね。

「そう? お母様にも見せてほしいわ。また作ってくれる?」

「うん!」

「大好きよ、レオン。お昼寝の前に本を読んで、一緒に寝ましょうか」

「いちょ?」

「ええ、一緒よ」

この幼くなった言葉も、赤ちゃん返りの一種かしら。生まれる前から出ちゃうのは、それだけ私を好きな証拠よ。きちんと受け止めて、愛情を返すわね。