作品タイトル不明
480.届いたマタニティーを着て
翌日には、急ぎで仕立てた二着が届いた。仕立て屋さんは、私が大変だろうと気遣ってくれたみたい。嬉しいので、今後もこちらの仕立て屋さんに注文すると話した。フランクは、大きいお腹に合わせた服を、早めに注文してはどうかと提案する。
「注文して頂戴」
マタニティーはゆったり作るため、ドレスと違いサイズの心配が少ない。だぼっと被る服も便利だもの。追加注文をして、こっそりとお願いも付け足した。フランクは意味ありげに微笑み、その注文を伝える。
「この注文は、皆には内緒よ」
「何のお話でしょうか。私は存じません」
全く知らないから、誰かに漏らさない。不思議な言い回しね。こういった貴族のやり取りを、フランクは日常に混ぜて教えてくれた。いろいろ考えて、答えを出すの。クイズみたいで楽しく学べる。
「……知らないなら、誰にも話せないわね」
「ええ、その通りです」
今回は正解だった。ちょっと嬉しくなる。持ってきてもらったマタニティーに、早速着替えた。妊娠が判明してから、イルゼがサポートに入っている。その代わりに、マーサはレオンの専属みたいな状態だった。
「おかぁ、しゃま……も、いぃ?」
女性の着替えの間は席を外す。そう聞いて、実践していたの。ちらっと顔を覗かせるレオンは、ぱちくりと大きな目を瞬いた。ノックして答えを聞いて覗くのよ……と教えるのはまだ先ね。今は仕方ないわ。
「いらっしゃい、レオン」
「これ、ふあふぁあ」
ふわふわ、かしら? スリットの入ったロングスカートの上に、巻きスカート風にガーゼを重ねている。足が見えないし、風も通すので涼しいはず。まだ暑い季節ではないので、効果が分かりにくい。
下のスカートは小花柄で、上のガーゼは無地。でも色をピンク系で揃えてあるから、お揃い感があるわ。
「しゅっごい! さやさや……」
さらさら? 独特な表現方法だわ。直さないと他の人に伝わらないけれど、個性だから直すのも違う気がした。
「そうね。さやさやね」
「ちぁうよ。さやさや!」
本人は「さらさら」のつもりなの? ふふっと笑って「さらさらよ」と告げれば、満足そうに頷いた。言えていないだけで、感性が個性的なわけじゃなさそう。
ガーゼに頬擦りするレオンは、笑顔で手を差し出した。繋いで歩き出す。思い出したように「あっ!」と私を見つめた。
「きれぇ、よ」
誰の口調真似? 私かユリアーナ……いえ、侍女達の可能性もありそう。
「ありがとう、レオン。褒めてくれて嬉しいわ」
丁寧に返したら、にこにこと歩き出した。猫部屋で、今日は掃除だったかしら。二重扉をくぐって室内で座ったら、慌てたリリーに猫当番を外すと言われた。猫との触れ合いもダメなら、することがなくなってしまうわ。