作品タイトル不明
479.大胆にスリットを入れる
仕立て屋さんは真剣に見てくれた。でも伝わらなくて、私の説明を聞きながら描き直してもらう。おかしいわね、あの絵で伝わらないなんて。デザイン担当の奥さんの絵は上手だったわ。
中のスカートをもう少し……と短くしていく。フランクからストップが入った。デザイン画を見ながら唸る私の隣で、レオンがお絵描きを続ける。ご機嫌で三角を描き、なぜか後ろに三角を重ねた。その角度で、はっとする。
「スリット! スリットを入れたらいいわ」
ぽんと手を叩いて提案した。タイトなスカートでも、スリットを入れたら歩きやすい。でも足首が見えちゃうから、巻きスカートで隠す。既存のふんわりスカートより安全だと思うの。
お腹が大きくなれば、転ぶ確率が高くなる。妊婦の転倒は大事故に繋がるわ。力説したところ、思わぬところでヘンリック様が口を挟んだ。
「この部分をカットして、こうしたら……どうだ?」
「素敵、歩きやすそうだわ。ありがとうございます」
仕立て屋の奥さんが描いた絵に、追加ね。既存のガーゼ生地も、二枚重ねていた。その仕様を使い、スリットをずらして重ねるの。大きくカットを入れた上に、別のスカートを重ねる。これなら歩きやすいわ。
前後左右、どこにでもスリットの位置を変えられるのも便利。貴族夫人はオーダーだもの。人によって歩きやすさが変わるでしょう? 私は左側をカットしてもらう。膝の位置まで大胆に切って、上にスカートを重ねた。さらに巻きスカートをしたら、お洒落だわ。
マタニティーの概念が変わりそう。それに見た目だけじゃなく、安全面も整った。すぐにその場で仮縫いを行い、体に合わせてみる。思ったより歩きにくいので、右側にもスリットを入れた。チャイナドレスみたいね。
腰の位置から薄絹を重ねて縫えば……完璧だわ。
「これで数着用意して」
「枚数は足りるのか?」
「大丈夫よ。もっとお腹が大きくなったら、追加するわ」
ヘンリック様は忘れているみたいだけど、子供が一人お腹で成長するの。びっくりするくらい膨らむんだから。
「そんなに?」
「妊婦を見ていないのね。このくらい膨らむわ」
近くにあった布を丸めて、お腹に当てる。その大きさに目を丸くして、恐る恐る触れていた。まだお腹じゃなくて、生地よ。レオンはきらきらした目で「いもぉと、でる?」と尋ねた。
お腹が大きくなったら出てくると教えたから、この状況で生まれると思ったのね。布を元に戻したら、がっかりしていたわ。ごめんなさい、生まれるのはだいぶ先よ。