作品タイトル不明
476.スカートの裾は譲れないみたい
空はぎりぎり持ち堪えた。私達が室内に戻って、すぐに降り始める。ぽつりぽつりではなく、派手に……夕立のような勢いだった。その中を、ヘンリック様の馬車が走る。
帰ってきた夫を出迎えたら、心配された。お医者様の言葉を伝え、ようやく安定期に入った話をする。もちろん妊婦だから無理はできない。散歩や軽い運動は大丈夫と説明した。
「そうか、気をつけて過ごしてくれ」
赤ちゃんもだけど、私の体を心配してくれる。声や表情からそれが伝わって、胸がじんとした。
照れて話を天気に逸らせば、ヘンリック様は雨が降る直前に馬車に乗ったと笑う。ベルントはやや濡れたらしい。同行した騎士や御者は気の毒ね。
「義父上殿達は、雨で足止めか?」
「ええ、この雨では傘を差しても濡れてしまうもの」
通り雨のようだから、少ししたら止むでしょう。話をしながら歩く間も、ヘンリック様の腕が腰に回っている。まだお腹も大きくないし、転ぶ心配はないのに。
「ぼくも……」
同じようにやりたい。大人の真似をしたがるレオンは、ヘンリック様に訴えた。私の腰に手を回すのは無理よね。そう思ったのに、抱き上げて叶えてしまう。腕は回り切らないけれど、腰に触れて満足そうだった。
「マタニティードレスの話なのだけれど」
「仕立て屋を呼んで、注文しなければいけないな。俺が休みの日がいい」
「立ち会いは嬉しいわ。スカート丈の相談があるの」
この世界で貴族夫人が足首を見せるのは、はしたないとされる。それは理解しているわ。でも、とにかく歩きづらいのよ。普段は摘まんで裾をぎりぎりで歩ける。お腹が大きくなったら、足元がまったく見えなくなるはず。裾を踏んで転んでしまう。
説明する間に、食堂へ到着した。お父様達を待つ間に、紙とペンを使って絵を描く。隣で、レオンがクレヨンを握っていた。大人しく絵を描いているので、その間に説明してしまいましょう。
焦ると、いつもより絵が雑になるのよね。言い訳しながら、三角のスカートと棒の足を描いた。これで伝わるかしら。
「……つまり?」
「スカートから足首が出る服を作りたいの。もちろんマタニティーだから、屋敷内で着用するわ」
この服で外へ出ないから許してほしい。そう伝えるも、ヘンリック様の表情は芳しくない。見守るイルゼは目元を手で覆い、フランクも眉根を寄せた。そんなにダメなの?
「アマーリアと胎児の安全が一番大事だ。それは大前提だが……足首を見せるのは……」
無理なのね。がっかりした。貴族夫人は妊娠したら、ほとんど部屋に篭って過ごす。刺繍をしたり、赤ちゃんの服を縫ったり。出歩かないなら、スカートの長さは問題にならなかった。
私が動き回ろうとするから、裾を踏む危険が増える。やっぱり大人しくするべき?