作品タイトル不明
475.やっとお散歩できるわ
「おめでとうございます、公爵夫人。危険な時期は過ぎました」
安定期に入るまで……を合言葉に、様々なことを我慢した。お医者様の指示に従い、ひたすら安静にして。レオンの抱っこも散歩も、いろいろ諦めた数週間。やっとこの言葉が聞けたわ。
「ありがとう、皆のお陰ね」
ほっとした私は、横になったベッドで大きく息を吐いた。ベッドに座って待っていたレオンが、首を傾げる。
「いもぉと?」
「赤ちゃんはまだよ。これからお腹が大きくなるの」
「まだ……」
少し残念そう。でも安定期に入ったから、動けるようになるわ。皆の心配もひと段落かしらね。
お医者様を見送ったイルゼは、明るい表情で戻ってきた。お礼を多めに包んでくれた? 確認して、差し出されたお茶に口を付ける。麦茶を出してくれるよう頼んだ。子供にも妊婦にも優しいし、水分補給に最適だった。
生まれてもしばらく、コーヒーや紅茶は飲めない。嗜好品として麦茶の用意をお願いしたの。半分ほど飲んでコップを戻す私と違い、レオンは一気飲みした。両手でコップを掴んで、ぐいぐい飲む姿は可愛い。飲み干すと、ぷはっと声に出した。
「おいち……っ」
「後でまた飲みましょうね」
時間を決めて、定期的に摂取する。水分が不足すると、足を攣ったりするでしょう。それで転んだら困るもの。
「ぼく、もと!」
もっと飲む。コップを差し出す。麦茶だからいいわよね。迷ったけれど許可を出した。二杯目は半分だけ、それも飲み干してにこりと笑う。説得してコップを返してもらった。
まだ飲むつもりでいたのよ? トイレが近くなっちゃうわ。マーサに注意するよう伝えてもらった。
診察も終わったので、軽い散歩をしよう。屋敷内に限定されていたけれど、今日は部屋の前の芝生に出たいわ。さすがにイルゼも反対しなかった。代わりに彼女が付き添う。リリーやマーサもいるから、安全ね。
「小さな騎士様、手を繋いで」
「うん」
しっかり手を繋ぎ、ヒールの高くない平らな靴で歩き出す。マタニティードレスはまだ早いので、裾の長いワンピースだった。貴族女性は踝から上を見せないマナーがある。決まりだから従うけれど、裾が長いと危ないのよ。
マタニティーも裾が長いんでしょうね。裾上げしたら怒られちゃうかしら。摘まんで歩いても叱られそうね。対策を考えながら、久しぶりの屋外を楽しむ。
ヘンリック様がいない時は、出ないよう言われていたの。でもお医者様の許可が出たから、問題ないはず。見上げた空はやや曇りで、雲が多かった。灰色ではないから、雨は降らないかも。