作品タイトル不明
474.家族三人でゆっくりと
今日は、ヘンリック様の仕事が午後からだった。この頃は分業化が進み、どうしてもヘンリック様が署名しなければならない書類は減ったと聞く。先代王と違い、カールハインツ陛下もきちんと仕事をしている。
話を聞いて、分業は必要ねと頷いた。だって、今までのやり方なら、ヘンリック様が体調を崩して寝込んだ途端、国政が止まってしまう。たった一人におんぶに抱っこでは、いつか倒れるもの。
後進も育っていると、ヘンリック様は胸を張った。自分が不要になる未来を作るのに、葛藤はなかったのかしら。半日休みに浮かれている様子を見る限り、用無しになる未来を望んでそう。
「開梱作業はフランクに任せて、のんびりしよう」
猫部屋へ足を向けるヘンリック様の正直さに、笑みが漏れる。浮かれているところ悪いけれど……多分止められるわ。
「旦那様、奥様を猫部屋にお連れになるなら……扉越しになさってください」
イルゼがぴしっと注意する。やっぱりと思った私と違い、彼は不思議そうに首を傾げた。隣でレオンも同じ仕草をする。
「猫はさまざまな病を持っています。爪や牙で傷を作っても、奥様はお薬を飲めません」
赤ちゃんに影響があるから、風邪薬にも注意が必要だった。その話を真剣に聞く二人……小さな騎士様は理解できていないと思う。
「おかぁしゃま、おすくり、だめ?」
「ふふっ、お薬は飲まないわね」
子供って、どうして単語の中で順番が入れ替わるのかしら。可愛い間違いに頬が緩みっぱなしよ。
「……俺も猫に触れない方が?」
「いいえ。触れたら手を洗っていただければ、大丈夫ですわ」
追加で口を濯ぐも付け足された。イルゼの管理がしっかりしていて、助かるわね。なるほどと頷くヘンリック様は、行き先を変更した。猫部屋でもいいのに……。
庭まで行かず、団欒の間から見える芝生の上に絨毯を用意させた。手を取ってエスコートしてもらう。左手は小さな騎士様、右腕を夫に任せた。大量のクッションを重ねた中に座り、同じように座った二人と向き合う。
ふと気づいたのだけれど……家族三人は滅多にないわね。実家の家族がいつも一緒だった。こういうのも素敵だわ。
「風が気持ちいいわ」
「ああ。日差しは強くないか?」
「平気よ」
後ろで侍従がテントを準備していた。パラソルだと、三人を覆うには小さい。ベルントの指示みたいね。組み立てたテントは、上部の屋根だけ。追加で薄く透ける壁を足せる作りだった。
ふわりと被せるように運ばれたテントの下に入ったら、ひやりと涼しい。私が思っていたより、日差しは強かったみたい。
レオンが絨毯を転がって、私の足にしがみつく。両手両足を使って、がっちり絡みついた。
「このままお昼もここで食べよう。ゆっくりしたいからな」
「膝枕でもする?」
「魅力的な誘いだが……」
ちらっとお腹を見て、首を横に振った。神経質な周囲の反応に戸惑うけれど、心配は嬉しい。安定期に入るまで、大人しくしているわね。