作品タイトル不明
471.贈り物の理由は母親らしい気遣い
マントをくれたのは、ティール侯爵夫人だった。ハンナ様の刺繍について余計な知識を得た直後だから、動揺しちゃうわ。
「どうしてマントなのかしら」
不思議ね。首を傾げたが、特に理由は思い当たらない。イルゼ達も驚いているので、こういう慣習があるわけでもなさそう。レオンはマントを着けて、くるりと回った。今度は反対に回っている。目が回ってしまうわ。
「これ、どらぎょん、たおす。ゆーちゃの!」
ドラゴンを倒す勇者の絵本を読み聞かせた記憶が過ぎる。私、ハンナ様にその話をしたかしら?
「それ、母上からか? 俺がレオン様の話をしたからかも」
オイゲンが口を挟んだ。ドラゴンの絵本を読んでもらった、とレオンが彼に話したらしい。何度か鍛錬ごっこに付き合ってもらったので、その時かもしれない。勇者に憧れている様子だったので、ハンナ様に雑談として話した。
「俺も同じような時期があって、マントを欲しがったと言われました。それで用意してくれたのかな」
兄が褒美を貰うときは、自分も飴を貰った。懐かしそうに語るオイゲンの姿に、微笑ましい気持ちになる。
ハンナ様はいつも、二人に偏りなく愛情を注いだのね。すれ違いで上手に伝わらなかった。それぞれの性格や個性もあるけれど、皆が下の子に夢中になれば上の子は拗ねてしまう。でも上の子ばかり褒めて構えば、下の子は寂しがる。
身に染みて知っているから、レオンに贈り物を用意したんだわ。
「ハンナ様は素敵なお母様ね」
「ええ。立派な仕事に就いて、恩返ししたいと思います」
かつての悪ガキとは思えない言葉を口にして、オイゲンは屈託のない笑顔を見せた。蟠りもなさそうで、よかったわ。
「ぼく、かっちょい?」
「すごくカッコいいわ、レオン。近くでよく見せて」
走ってくるレオンは、ぶつかる手前で止まった。恐る恐る距離を詰めて、椅子に座る私の膝に両手を置く。お腹や体を押さないこと……イルゼから聞いた注意を守っているのね。黒髪を撫でれば、にこにこと笑顔を振りまいた。
「後ろはどうなっているの? あら、素敵。とても似合うわ」
私の言葉に背中を見せたレオンが、またくるりと回る。よほど気に入ったのね。その間にも、次々と贈り物が開けられていく。赤ちゃんへの贈り物が大量に積まれるのを、レオンはじっと見ている。
「レオンはたくさん、玩具や服を持っているでしょう?」
「うん」
「赤ちゃんは何も持っていないの。だから皆が用意してくれるのよ」
「ないないの?」
「ええ、裸で何も持たずに生まれる。レオンもそうだったのよ」
驚いた顔をした後、レオンは開封するユリアンの元へ走った。一緒に包装紙を破き始める。何かがレオンの琴線に触れたならいいけれど。