軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

470.ちょっとヤキモチかも?

ティール侯爵夫人ハンナ様の、刺繍が苦手という情報を得てしまったわ。貴族夫人の情報戦に役立つのでしょうね。でも私は記憶から抹消したかった。

私も刺繍が下手なのよ。裁縫は何とかなるけれど、あの細かな作業がイライラしちゃって。向いていないのだと思うわ。優雅に刺繍する生活をしてこなかった影響も、あると思いたい。下手すぎる原因を、外に求めたくなるの。

ユリアーナは私と逆で上手だわ。お母様も……上手な方だった。お父様が大切にしているハンカチ、刺繍を入れたのがお母様だもの。洗濯した時に見た感じでは、手が込んでいて綺麗だったわ。

「おかぁしゃま、ちぃ……」

出ちゃう。袖を引っ張って訴えるレオンに、手を繋いで歩き出した。慌てる周囲をよそに、トイレへ連れて行って座らせる。立ったまま用を足すのは、まだ早いのよ。溢しちゃうもの。

すっきりした顔のレオンに微笑みかけ、個室を出ると……マーサがおろおろしていた。いつもならマーサに訴えて、トイレに来る。今日はなぜか私の同行を求めた。

「レオン、お母様はレオンが大好きよ」

「ぼくも」

嬉しそうに笑う。気のせいかもしれないけれど、嫉妬かもしれない。皆が赤ちゃんで大騒ぎするから、自分が忘れられたような気がするのよね。レオンは人の気持ちを読むのに長けている。だからこそ、気をつけてあげないと。

「お父様も、じぃじも、皆も……レオンが大好きなの」

「うん」

しっかり頷くレオンの口元が緩んでいた。ご機嫌は直ったみたいね。

贈り物が積まれた部屋に戻っても、レオンはご機嫌だった。座った椅子で足をぶらぶら揺らし、マルレーネ様に頂いた毛布を撫でている。さすがに複数のお子様がいる方だわ。レオンの分も用意してくださったなんて。出てきた毛布は二枚あったの。

プレゼントの山に、ローラント様のお名前があった。ユーリア様のご子息で、バルシュミューデ公爵家の跡取り。今は留学中と思っていたのに、帰っていたそうよ。前倒しで卒業資格を得たらしいわ。さすが優秀なのね。

「これ、レオンの分もあるぞ」

先頭を切って開封に勤しむユリアンが、大きめの声を上げた。毛布に刺繍されたうさぎを撫でていたレオンが、反応する。おいでと呼ばれて、椅子をお尻で滑って下りた。

駆け寄った先で、箱の中身を覗き込む。頭が大きくて転がっちゃいそう。中から引っ張り出したのは、布?

「まんと!」

「おお、カッコいいぞ。着けてやるよ」

ユリアンがレオンの背中に掛けて、飾り紐の脇にあるボタンを留める。くるりと回るレオンの背中で、黒いマントが揺れた。内側が赤で、吸血鬼みたいだわ。