作品タイトル不明
459.「三歳」は意外と難しい
お昼のパンは、味わって食べたわ。レオンとユリアーナが頑張ってくれたんだもの。美味しくないはずがない。レオンはパンを捏ねた話をしながら、小さく千切ったパンを差し出した。食べて、切った肉やサラダをお返しする。
仲良く食べさせ合ったら、ユリアンが呆れ顔だった。仲が良すぎて怖い? 変なこと言わないで頂戴。ユリアーナはこの後、ダンスの教師が来る。この際だから、ユリアンもきっちり覚えた方がいいわ。
ダンスレッスンは一通り終えたエルヴィンは、レオンと数の勉強をする。教える経験はいつか役立つかもしれないわ。レオンは両手を使って数え、足りなくなったら、私を振り返った。
「どうしたの?」
「てぇ、かちて」
自分の手の指が足りないから、私の手を使うの? すごく賢い選択だわ。驚いて固まるも、すぐに急かされた。
「おかぁしゃま、はぁく!」
レオンが数える速度に合わせて、手の指を折り曲げる。また足りなくなるわよ。そう思ったけれど、数えたのは十五までだった。どうやら数え方を教えるエルヴィンは、両手が塞がった際の対策を話すつもりだったのね。
そこで私の手を使うなんて、想像もしなかった。驚いた弟に、ひとまず両手で足りる数え方を繰り返し教えてと伝えた。まだ三歳を過ぎたばかり、そんなに急がなくていいわ。
「ひとちゅ、ふたちゅ、みちゅ」
私の想像と違う数え方ね。いち、にぃ、さん、ではないの? 首を傾げる間にレオンは、「とぉ」と最後の指を折り曲げた。可愛いし、これはこれでいいかも。
「レオンは何歳になったの?」
「みちゅ!」
指がなぜかピースサインになってるわ。指を三本に直させて、もう一度同じ質問をする。レオンは得意げにピースをした。可愛いけれど、なぜかしら。何度か教えている間に、三本の指を立てられるようになった。薬指は上に向かず、前に突き出した形だ。
この形が基本だから、ピースが楽なのね。少ししたら上達するでしょう。上手にできたと褒めて、頬にキスをした。
「ぼく、みちゅ!! みちゅ」
「さんさい、と言えるかしら」
「ちゃん、ちゃ……しゃ、ん……ささい!」
ん、惜しい! 途中で「ん」が行方不明よ。指と一緒に三歳を教えていたら、いつの間にかエルヴィンが読書をしていた。いけない、弟の邪魔をしたみたい。
「エルヴィン、もう一度数え方の復習をしてみてくれる?」
「はい、姉上」
昔はお姉ちゃまと呼んでいたのに……双子が生まれてから? いえ、もっと後ね。お母様が亡くなられた頃から、呼び方が変わった。伯爵家嫡子の自覚が出たのかしら。姉としては少し寂しいわ。
「みちゅ……さん、ちゃい!」
こつこつと練習したレオンは、夕方までに「さんちゃい」と三本指の仕草を覚えた。よく頑張ったわ。