作品タイトル不明
458.可愛い二人のパン作り
レオンのパン作りは、こっそり覗かせてもらった。ユリアーナは私が嫁いだ後のため、料理を教えてあったの。慣れていて、手際がいい。粉を計量し、さっさと必要なバター、卵などを並べた。
その間にレオンは丁寧に手を洗う。ちらちらとユリアーナの動きを確認しながら、しっかり洗った手を拭いた。
「お姉様に美味しいパンを食べてもらうのよ。頑張りましょうね、レオン」
屋敷内では「レオン」と呼ぶ。切り替えの上手なユリアーナは、いいお姉ちゃんね。レオンの袖を捲ったり、汚れ防止にスカーフを巻いたりしていた。子供用のエプロンなんてないから、きちんと考えて工夫しているわ。
最初に混ぜるところは、ユリアーナが行った。というのも、べたべたと手に付いちゃうのよね。ある程度硬さが出てきたら、レオンの出番よ。コネコネする様子が、毛布を揉む猫みたいで可愛い。隠れて眺める私の隣で、イルゼも夢中になっていた。
「すごく可愛いわね」
「ええ、奥様。本当に……ご立派です」
感じ入っている部分が私と違うみたい。レオンのもみもみが一段落し、ユリアーナの出番だ。千切って大きさを確認し、きちんと計ってから丸める。発酵させる間に、ユリアーナは焼き菓子も作り始めた。
「ぼくも!」
「レオンはこれをやって」
型抜きでぽんぽんと押して見せる。平たい生地にレオンは慎重に型抜きを当てた。一個ずつ確実にこなしていく。これって、慣れの問題じゃなさそうね。ヘンリック様の性格を思い浮かべ、なんとなく納得する。うん、同じ状況になると思うわ。
「いちょ、いちょ……」
一個と数えているのかも。まだ数え方を知らないから、全部一個なのね。きちっと等間隔になるよう型抜きをするレオンが、一列終えると力を抜く。肩凝りしそうなほど、全身に力が入っていた。
ふと顔を上げて、こちらを見る。私とイルゼは反射的に息を止めた。じっと動かない。レオンは目を逸らし、また型抜きを始めた。ほっとして息を吐き、顔を見合わせたイルゼと笑い合う。苦しかったけど、見つからなくてよかった。
これ以上は邪魔になるといけないから、私達は引き上げる。発酵したパン生地で形を作り、窯を担当する料理人が美しくこんがりと焼き上げるだろう。想像するだけで、楽しい。
お昼に焼くパンは、半分ほどを夕食に回す予定だった。帰ろうとした私達に、一人の料理人が近づく。ヘンリック様くらいの年齢ね。
「このたびはご迷惑をお掛けしました。奥様に受けたご恩は一生を懸けてお返しいたします」
「甥です」
イルゼのサポートで、猫を飼っていた料理人だと理解した。あまりフランクに似ていないから、イルゼの血筋かしら。
「構わないわ。たまに猫部屋にも遊びに来て、と三毛猫に伝えてね」
飼い主の許可があれば、遊びに来られるでしょう? ふふっ、だって子猫達が懐いて一緒に寝ていたから。これからも会える方が幸せよね。