作品タイトル不明
457.古い前例は変更しましょう
「一般的に、どの程度の罰なのかしら」
「料理人は主家のご家族様はもちろん、使用人達も含めた多くの命を預かる仕事です。そのため罰は重くなります……両手首を切り落として放逐が前例です」
両手首を切り落としたら、今後、どうやって生活するのよ。その状態で放逐? できるわけないわ。
「前例に従う必要はあるのかしら? 私達自身が猫を飼っているの。猫達に触れたら手を洗い、口を濯ぎ、決して口付けなどはしない。徹底しているわ。それで問題はないのに……使用人だからと厳しいのは、おかしいわね」
前例は前例で構わない。でも古い時代の前例を引っ張り出し、同じ処罰をするのは間違っている。家族に猫アレルギーがあったとしても、その料理人を家族の調理から外せばいいこと。使用人の料理を作る人も雇っているのだから、そのくらいの融通は利くはずよ。
「甘い前例を作れば、今後問題が起きる可能性がございます」
イルゼは淡々と感情を消して忠告する。でも表情はほっとして綻んだわ。安心したのでしょう? いつ罰せられるか、ビクビクしながらいい仕事はできないもの。
「あら、そう。でも私が決めたことよ。女主人としての権限で、今回の件は裁きます。そうね……減給一ヶ月と三日の職務停止よ」
リリーの表情が明るくなった。やはり親族か想い人か……繋がりがありそう。
「伝えてきて頂戴、リリー」
「はい、奥様」
車椅子を押すイルゼが足を止めた。誰もいないのを確認し、こそっと耳元で囁く。
「ありがとうございます」
驚いたことに、イルゼの甥らしいわ。弟の子で、料理人として長く働いてきた。慣習や前例は大事だけれど、古い考えは更新していく必要がある。
猫の件もそうよ。私達の命に関わる問題と判断すれば、罪は重くなる。けれど彼に悪気はなくて猫に触れた後の手洗いをしっかりしていたら……罰する必要はないわね。今回の処罰も、言わずに隠していたことへの罰だもの。
「料理人が復帰したら、アップルパイを焼かせて。お茶の時間に頂きたいわ」
「承知いたしました」
これで彼が職場復帰したかの確認もできる。三日後の楽しみができたわね。
アイにそっくりの三毛猫は、特に血縁関係はなさそう。あまりに似ているから、姉妹かと思ったけれど……ただの偶然ね。アイよりお婆ちゃん猫だった。
鍛錬を終えたレオンに、あの三毛猫は飼い主に返すと説明した。きょとんとした後、にこりと笑う。
「よかたね!」
「ええ、よかったわ。猫ちゃんも飼い主に会いたいでしょうし」
聞いていたユリアンから話が広がり、半日で皆が知っていた。帰ってきたヘンリック様にも教えないと……拗ねちゃいそうね。
「ぼく、おかぁしゃまの、ぱぁん、ちゅくる」
ユリアーナと手を繋ぎ、元気に厨房へ向かった。こうやって見送る日が増えていくのも、成長の一つ。喜ばしいのに、寂しくなりそう。