作品タイトル不明
456.三毛猫の飼い主が見つかった
翌日は久しぶりに車椅子の出番だった。ヘンリック様は抱き上げて移動したがるが、仕事は休めなかったらしい。渋々、何度も振り返りながら出かけて行った。
見送ってすぐ、レオンが駆け寄る。車椅子を押すのは侍女長のイルゼで、レオンの前でぴたりと止めた。
「おかぁしゃま、とりぃしゃん、くる?」
「すぐはわからないわ」
遅くても三ヶ月待ってほしい。微笑んでそう伝えた。レオンは三ヶ月の意味が分からず、きょとんとして手を眺めている。両手では足りないわね。
「数のお勉強もしてみる?」
興味を持った時が、学ぶタイミングだ。歴史や礼儀作法など、貴族として身につける知識は五歳以降で構わない。ただ、本人が興味を持った分野は、そのタイミングで始めた方がいいでしょう。好きなことなら覚えるもの。
「うん」
エルヴィンが午後に教えてくれると聞いて、レオンは満面の笑みで頷いた。午前中は鍛錬ごっこのため、木の棒を掴んで庭へ出ていく。
「おかぁしゃま、いる?」
「ええ、ここで見ているから安心して鍛錬してきてね。私の小さな騎士様」
「うん!」
元気に走るレオンは、出会った頃と全然違う。わずか一年ほどで、歩き方もしっかりした。転ばなくなったし、ふらつきも減っている。やはり兄弟がいて走り回る子は、成長が早いんだわ。
兄や姉にできることが、どうして自分はできないのか。子供は理解しない。だから追いつこうと背伸びするわ。その分、下の子は成長が早くて……寂しい気もするわね。いつまでも手を繋ぐ幼子でいてほしい気持ちもあった。
「奥様、先日保護された三毛猫の飼い主が見つかりました」
「いたの?! よかったわ、きっと心配させているでしょう。どちらのご家庭の子だったの?」
侍女リリーの報告に、私はぽんと手を叩いて喜ぶ。捕まえたから、帰って来ないことを心配させたでしょう。悪いことをしてしまったわ。母猫アイにそっくりな模様の三毛は、当然メスだった。
「飼い主なのですが……」
何か問題のある家なのかしら。言いづらそうにした後、覚悟を決めた顔でリリーは私を見た。
「使用人でした」
「……え?」
「料理人がこっそり飼っていました。叱られると思い、なかなか名乗り出なかったようです」
驚いた私に、リリーは慌てた様子で説明を付け加える。要は料理人は、衛生的な面で動物との触れ合いは減らすのが慣わしだった。それを破って、猫を飼ってしまった。叱られると思い口を噤んだが、我慢できずに申し出たみたい。
「罰を与えますか?」
リリーはその料理人と仲がいいのかもしれない。心配そうに表情を曇らせた彼女に、私はこてりと首を傾げた。
「なぜ?」
「奥様、慣例を破った使用人には罰を与えるのが、女主人の仕事です」
車椅子を押すイルゼの説明に、なるほどと頷いた。