作品タイトル不明
454.明暗が分かれた覗き見
時間のかかっていた温室に、ようやく完成の目処が立った。引き渡し手前まで来て、台風で壊れた温室はデザインを変えた。以前の設計は四角で、屋根は四角錐だったの。
今回は十二角形だった。こちらの方が、手がかかって大変じゃないかしら。そう思ったけれど、枠は四角と同じように作れるし、ガラス一枚あたりの大きさが小さくなる。材料の調達が簡単になった。
ほぼ円形に近い形状で、屋根は低くなる。王家の温室が四角だから、同じ形状を予定したみたい。設計はヘンリック様やフランクが話し合って決めたので、私は関わらなかった。
今回の形状変更で、ガラスや枠が小さくなり、納期が短くて済むそうよ。それに材料調達が楽になり、量産化も可能になったとか。他の貴族家から問い合わせがあって、八角形ならと許可を出したと聞いている。
壁面の一部にステンドグラスを採用し、明るく華やかに仕上げてもらう。そう聞いたら、覗きたくなっちゃうわよね。フランクの目を盗み、お父様やエルヴィンと……こっそり。途中で発見されて叱られた。それも廊下でよ?
「奥様、伯爵様まで一緒になって! 若様達に示しがつきません」
「ごめんなさい、イルゼ」
しょんぼりと叱られている間に、レオンの手を引いたユリアンは視察してきたそう。鍛錬ごっこに向かうと見せかけ、回り込んで中を探検したんですって。叱られた後で聞いて、羨ましくなったわ。でも私達が叱られたから、ユリアンは侵入できたのよ。
ある意味、囮だもの。レオンは興奮した様子で、ステンドグラスの美しさを話す。温室なので、花や葉をモチーフにした絵みたい。ユリアーナは、どちらにも置いて行かれたと唇を尖らせた。でも、オイゲンと一緒に楽器を弾いていたし……。
追求すると真っ赤な顔で逃げてしまい、まさか? と心配になってオイゲンを問い詰めた。キスでもしたのかと思ったけれど、手を握ったくらいね。今後も節度あるお付き合いをお願いしたいわ。
「おかぁしゃま、おとちゃまと、みゆ?」
「温室を?」
「うん」
もじもじしながら、レオンは再び切り出した。
「いっちょ、いもーと、でき、る……?」
「……ユリアンね」
低い声になってしまった。びくりと肩を揺らして逃げようとしたユリアンが、エルヴィンに捕獲される。
「リア姉様、俺はその……」
「変なことを吹き込んだ罰よ。今日のおやつは抜きです!」
「えええ?!」
レオンはきょとんとして、首を傾げる。頭の上のやり取りが理解できず、人差し指を咥えて左右をきょろきょろ見回した。しゃがんで視線を合わせ、レオンに微笑みかける。
「妹はすぐは無理なの。神様にお願いして、鳥さんが運んでくるのよ」
「とりぃ、しゃん……」
なんだか人の名前みたいになっているわ。鳥さんよ、と繰り返しながらレオンの頬を突いた。なんて可愛いのかしら!