作品タイトル不明
453.受け継がれる子守唄
レオンの黒髪を撫でながら、小さな声で歌う。子守唄を真似しながら、レオンの口が動いた。親から子へ、そして孫へ。子守唄は口伝で受け継がれる。愛情を持って我が子に接すれば、自然と途切れることなく繋がるはずよ。
ヘルダー伯爵家は間違えてしまった。夫人は三人の息子に愛を注いだのでしょうね。それでも一人だけ道から外れてしまった。侯爵家次男であるオイゲンの地位や立場、権力を己のものと勘違いした末息子が、家族を崩壊させる。
気の毒だけれど、これが貴族社会だった。私達は民が納める税金で生きているの。矜持と見栄で家格を保ち、それを盾に領地を守る。その盾が自らの立場を忘れ、暴走したら……打ち捨てられるのよ。
シュミット伯爵家が没落しかけたのも、民と向き合う時間が足りなかったお父様の失態。幸いにして私が梃入れし、弟エルヴィンに引き継がせる道を模索した。これも貴族の義務なのよ。父の失態を娘や息子が補えれば、立て直すことも可能だわ。
ヘルダー伯爵家は息子が騒動を起こしても、父がきちんと対応すれば妻や残った子を守れた。謝罪し、反省させ、今後同じことが起きないようにするべきだったの。ごく当たり前の躾を怠ったことが、領地の民にまで迷惑をかける事態に発展する。
公爵家の夫人として、私も振る舞いや言葉に気をつけなければ……。ふと気づけば、レオンはぱちりと目を開けていた。
「おかぁしゃま……ぃたいたいの?」
「いいえ、心配してくれてありがとう。どこも痛くないわ」
笑顔で答えても、レオンは納得していない様子だった。胸元に置いた手でぽんぽんとリズムを刻み、再び子守唄を聴かせる。可愛い天使が心地よく眠れますように。愛情を込めて視線を合わせれば、やっと安心したみたい。
手の動き、視線や表情……声。何か一つでも異常があれば、子供は敏感に感じ取るのね。もう考えるのはやめましょう。私には、ヘルダー伯爵家を救う方法も義務もない。関わりは終わったの。
小さな音がして、扉が開く。忍び足のヘンリック様が首を伸ばし、レオンを窺う素振りを見せた。微笑んで首を横に振る。まだ起きているわ。
「おと、ちゃま?」
「ええ、お父様が来たわ。もう安心して眠れる?」
「う……ん」
返事の途中から、眠さに負けたみたい。レオンはすやすやと寝息を立て始めた。ひそひそとレオンの話をして、それ以上は尋ねない。横になって、レオンを中心に向き合った。
「おやすみ、アマーリア」
「おやすみなさい、ヘンリック様」
身を起こして頬にキスをくれた夫に、私もキスを返した。微笑んで唇を軽く重ね、再びベッドに沈む。悪夢を見なくて済みそうね。