作品タイトル不明
445.人が集まる場所なら可能性はある
勝ち抜いて決勝戦に進んだのは、一回戦に出ていた筋肉隆々の男性と……小柄にも見えるほっそりした人だった。女性ではないはずだけど、ぽきっと折れちゃいそうな細さだわ。武器は木刀、気づいたら相手に当たっているのよ。
この世界にはないはずの、魔法みたいだった。相手の攻撃を躱して、最後に一撃入れて終わり。毎回そのパターンで勝ち進んだその人は、ローブを被っていた。これって、正体を隠した王子様だったりしないわよね? さすがに知っている子がこんなことしてたら、叱りつけるわ。
「あいつら……」
ぽつりと呟いたオイゲンの眉間に皺が寄る。意味ありげな所作、これって伏線で、知り合いだったりする? 彼の様子を見て気づいた。違うわ、オイゲンの視線がステージ上にない。見ているのは、観客席の左側だった。
貴族か裕福な商人、そんな質の良さそうな服の人が並ぶ一角だ。男爵家や子爵家がいるのかも。なんだ、ただの知り合いみたいね。小説みたいな展開はなかったわ。
「デニス、ギード……か?」
唸りながら首を傾げるオイゲンは、無意識に声に出した。その名前は知っているわ。
レオンやランドルフ様が絡まれたお茶会で、オイゲンの腰巾着をしていた側近候補達。デニス・バルツァーは子爵家、ギード・シラーは男爵家のそれぞれ次男だった。
思わずレオンを確認する。当然、彼らの名前を知らないレオンは、決勝戦に夢中だ。聞こえていても、気にしないだろう。となれば……私は静かにオイゲンに近づき、ぽんと肩に手を置いた。びくりと身を揺らした彼に、優しく話しかける。
「お友達の名前ね、会ってくる?」
「……でも……あ、はい」
ケンプフェルト公爵家に世話になって、拗れた家族との絆も結び直した。自分だけ上手く行ったようで、気が引けるのよね? このまま逃げたら、二度と彼らと交わることがないわ。
家同士の利害関係があっても、一時期は共に学んで過ごした友人だもの。切り捨てるのは勿体無いわ。話してみて、互いに言いたいことを言い合って、満足してからでも遅くないでしょう?
覗き込んで視線を合わせる無粋はせず、窓の方を向いたまま話す。あの一角にいた友人を見つけたのなら、それはまだ縁が切れていないのよ。ぽんと背中を叩いて離れた。ヘンリック様の隣に戻れば、決勝戦は終わっていた。勝ったのは細身の青年で、ローブを取って大喜びしている。
「優勝者にお声がけしますか?」
レストランの店主が顔を見せ、提案する。慣習で、観戦した貴族が気に入った参加者にお金や物を渡すそうよ。レオンに誰がいいか聞いたら、決勝戦で負けたマッチョですって。お父様達は優勝者に、ご祝儀の金貨を用意する。
我が家も金貨でいいかしらね。