作品タイトル不明
443.簡単なルールで楽しめそう
食事を終えて、全員で手をよく拭く。特にレオンは念入りにタオルで拭いたわ。指や頬だけじゃなく、髪にまでソースが飛んでるんだもの。服は思ったほど汚れてなくて、ほっとした。貧乏時代の癖で、つい染み抜きの心配をしてしまうの。
「あっ! ステージに人が出てきた」
ユリアンの声に、皆の視線が窓へ向く。広場の中央に用意されたステージは、こちらが正面みたい。本当に、どうやってこのお店を見つけたのやら。フランクの超人ぶりには驚かされるわ。
声を張り上げる男性は、メガホンのような筒を持っていた。アナウンスがよく届く。これから試合を開始する宣言に加え、簡単なルール説明があった。
「この武闘会には、平民や衛兵も多く参加します。そのためルールが簡素化されています」
騎士の一人がそう付け加えた。相手を殺さない、降参したらそれ以上の攻撃は失格扱い。武器の種類は問わないなど。本当にシンプルなルールだった。口頭で説明して覚えられる程度の量と内容に絞ったのね。
平民の識字率は高くない。長々とルールを書いて張り出しても、覚えられないはずよ。口頭での説明も長ければ、聞き流されてしまう。最低限の安全とマナーを守って、正々堂々と戦いましょう……そんな感じだった。
緩い感じの武闘会かと思いきや、優勝者の中には騎士に選ばれた元衛兵がいた。出世のために己の実力を売り込む、手っ取り早い手段なのね。
「あれが参加者みたい」
ユリアーナがぽつりと呟く。よく見えないレオンを抱き上げようとしたら、先に靴を脱いでソファーによじ登った。侍従は驚いた様子だが、黙って靴を揃えている。まあ……貴族の若君の所作ではないわね。ヘンリック様も苦笑いし、二人でレオンを見守った。
自分でできる解決方法を模索するのは、悪いことじゃないわ。いろいろ経験するのは、子供の頃の方がいい。幼い頃の失敗は、取り返しがつくものが多いから。大人になって同じ失態を犯せば、罪に問われる場合も出てくる。貴族社会とは厳しい場所だった。
「すごぉい! いっぱいいる」
レオンが指差す先、参加者が全員並んでいる。先ほどのルールに従えば、負けた人から帰ってしまう。全員が揃うのは、開始前だけだった。ざっと二十人くらいか。勝ち抜きのトーナメント方式だ。
「では一回戦を始める!」
宣言でわっと歓声が会場を包んだ。ステージの参加者は、様々ね。細身の剣士もいれば、筋肉隆々の大柄な人もいる。一回戦は、筋肉同士のぶつかり合いだった。
殴り合う二人だが、血塗れになることはない。不思議に思って声に出したら、ヘンリック様が理由を知っていた。あれは体の表面に油を塗っているんですって。大きなケガになりにくいし、試合も長引いて楽しませる目的もあるとか。
娯楽のための戦い……プロレスみたいね。