軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

442.観戦前の腹ごしらえ

注文は侍従やベルントを経由する。貴族のこういうところ、面倒よね。でも公爵夫人として生きていくなら、慣れないといけないわ。

運ばれる料理は、どれもお洒落だった。フランクお勧めの店らしい。家令の幅広い知識に感心するわね。前世のファミレスに近いのか、様々な料理があった。大皿に慣れた皆は、運ばれた料理を分けて食べ始める。

「お姉様、これ美味しいわよ」

「まあ、本当ね。こちらもいかが?」

「俺はそれが食べたい」

様々な意見が飛び交い、料理の皿が侍従の手で移動する。取り分けて運ぶ案を出したら、小皿がたくさん必要になるからと却下された。食べ掛けのあるお皿に、料理をよそうのは無理なのね。自分達でやる分には、ギリギリ、いえ……かなりアウト寄りだけどセーフ。

「ぼく、こぇ、すき」

嬉しそうに笑うレオンは、やや硬いパンを齧る。柔らかめのバゲットが近いかしら。ブラウン系のソースを染み込ませてある。焼いた肉や煮込んだ野菜が載って、とにかく豪華だった。問題は食べる方法よね。

上品にフォークとナイフで食べるのが正解なの。でもレオンには難しいわ。自分で食べるくらい気に入っているなら、と好きにさせた。服も着替えを用意してきたはず。汚れたら、巻きスカートにしたスカーフで隠せばいいわ。

「ほぃちっ!」

ほっぺを膨らませて可愛い天使が笑う。口の周りにソースがべったり。くすくす笑う私に、レオンがへにゃっと顔を笑み崩した。ヘンリック様は侍従から受け取ったタオルで、レオンの口元を丁寧に拭う。

「うぐぅ……」

「騎士らしくないぞ」

嫌だと訴えるも、騎士を引き合いに出されて我慢する。綺麗に拭いてもらい、またパンを齧る。元通りだわ。でもヘンリック様は叱らずに、苦笑いで済ませた。

「食べ終えて拭いた方がよさそうね」

「ああ。うまいが齧ると口元が汚れるからな」

言いながら、ヘンリック様もパンを齧った。様子見していたオイゲンやエルヴィンも続き、お父様は切っていたパンを慌てて手で掴む。

こういうの、多分知ってるわ。映画で観たやつよ。掴み損ねて空を飛ぶエスカルゴ、女性に恥をかかせないために男性陣が手で掴む展開だったかしら? レオンが一人で恥ずかしくないよう、ヘンリック様が真似した。当然、上位者がやれば皆が従う。

お父様はせっかく上手に切ったのに……ユリアーナ達に分けるつもりのパンは、事情を察したユリアンが頬張った。無駄にならなくてよかったわ。ヘンリック様は小さめに千切ったパンを……迷いながら指で摘まんで差し出す。

「食べる、か?」

「いただくわ」

一口に収まる大きさだったので、素直に受け取る。レオンが真似して、パンを千切った。いつもより大きめだけど、頑張ればイケる……かも! えいっと貴族夫人らしからぬ大口を開けた。頬にソースが付いちゃったわ。

「失礼」

ヘンリック様が顔を近づけるから、どきっとして固まる。すると近くまで来た彼の指先がそっと拭い、ソースを口に運んだ。舐められるかと思ったじゃないの、もう!