作品タイトル不明
440.明日の注意事項を徹底する
父の条件は、三つだけ。常に誰かと手を繋ぐ。これは迷子防止のためね。迷ったら勝手に動き回らず、じっとしている。これも迷子の鉄則だわ。最後は、護衛の騎士から離れない。彼らも職務だから真剣に護衛するけれど、護衛対象である子供達が自由に動き回れば、逸れる可能性があった。
三つとも無理な話ではないし、最低限必要なことだけだわ。貧乏伯爵家時代、粗末な服で平民と遊んだ双子は、窮屈に感じたみたい。でも今は立派な伯爵家の令息や令嬢なの。すぐに誘拐されてしまうわ。
「でもさ、いつもは自由に出掛けてたじゃん」
「ユリアン、言葉! あの頃はボロボロの服で、髪もひどい状態だったでしょ? あの頃の生活に戻るなら、自由に街を歩けるわよ」
事実上、平民として暮らすという意味ね。あの姿なら、平民の子に見えるから誘拐対象にならない。
「それって、ピアノは持っていけないよな?」
「もちろんよ」
うーんと唸って、ユリアンは素直に降参した。諦めると言い、護衛を撒いたりしないと約束する。オイゲンは肩を揺らして、口元を押さえた。どうやら笑っている様子。
「ちっ、笑うなよ!」
「いや……だって、本当に貴族らしくないんだな、と思ってさ」
ユリアーナはぷくっと頬を膨らませて、ご機嫌斜め。過去の話をバラされて、気に入らないみたい。でも隠してもバレるんだから、今のうちに話したほうがいいのよ。
「あちた……、ぼく、おかぁしゃま、まもゆ!」
「ありがとう、レオンがいれば心強いわ」
決意したと真剣に口にしたレオンに、微笑んで嬉しいと伝える。私を守るつもりなら、手を離して走り出す心配は減るわね。それでもお菓子や猫など、子供の注意を引く何かに要注意だった。走る時は衝動的なんだもの。
着飾ってお揃いの服で出かけるのではなく、裕福な商人一家程度の装いで出かける。事前に用意した服をそれぞれに部屋へ持ち帰ることにした。
「奥様、若様、我々にお任せください」
侍従に服を渡し、玄関へ向かう。ヘンリック様の帰宅時間だわ。はっとした様子の家族も、慌てて追いかけてきた。
「おかえりなさいませ、ヘンリック様」
「ただいま戻った、アマーリア、レオン」
「おかえりちゃい」
口々に挨拶を交わし、お父様の一言で服を離れに運ぼうとする。仕事を奪われまいと侍女や侍従が遮り、揉める前に決着がついた。フランクに「使用人を使うことを覚えてください」と言われちゃったの。
私も身に覚えがあるわ。よく言われたもの。抱えた服を使用人に渡し、素直に食堂へ向かった。レオンはこの頃、鍛錬ごっこでスキップを覚えたの。まだ動きはぎこちないけれど、運動神経はいいみたい。踊るようにスキップで廊下を走り抜けた。