作品タイトル不明
436.女主人らしくは難しいわ
各領地から報告が上がり、私はヘンリック様の代わりに目を通して仕分けを行った。公爵夫人として、領地の運営に関わるのも大事な仕事だわ。ヘンリック様が王宮の仕事をしない方なら、夫の仕事になる。けれど、国の仕事をしているのに、領地まで管理するのは大変だもの。
フランクに教わりながら、書類にしっかり目を通した。レオンは膝に頭を乗せてうたた寝している。お昼寝の前にごねて、どうしても一緒にいたいと泣き出したの。三歳になっても、まだまだ子供。このくらい我が儘を言えるのは、レオンが伸び伸び育っている証拠ね。
「復興が大きく遅れた地域はなさそうね」
「はい。規模の大きな台風でしたが、幸い、ケンプフェルト公爵家の領地は掠めただけでした」
「直撃した領地も、国からの復興資金が出たと聞いているわ」
昨夜、寝る前に話したのよ。ヘンリック様の代わりに目を通し、決裁していいかと。問うた私に、国が行った施策を教えてくれた。カールハインツ様が、しっかり国王陛下らしい働きをしたと聞いて、私も嬉しくなる。
窓の外は曇り空、今日はどんよりした一日になりそう。下働きの子が、洗濯物が乾くか心配していたとか。リリーが他の侍女と話しているのを聞いて、庭の温室が完成したら干せると口にした。驚いて固まった後、慌てて止められる。
資金と資材を投入して建てる温室を、雨の日の洗濯物干しにするのは、貴族らしくない。言われればそうだけれど、私達がいない時ならいいと思ったの。でもダメなのね。
イルゼにも注意されちゃったわ。小さな温室のような場所を作って、洗濯物を干したらどうかしら。提案した途端、大きく深呼吸して説明された。呆れさせちゃったかも。
貴族家の洗濯物は多い。シーツ、寝着、テーブルクロスやタオル……さまざまな布が洗濯される。そのために専属の人を雇うのも、理解していた。こういった洗濯物は、天候に左右されないよう数セット用意されるんですって。一週間くらいは洗濯しなくても困らないよう、大量にストックしている。
私が余計な口を挟むことではなかったわ。この屋敷に来て一年が経つんだもの。そういった女主人の采配も覚えたい。
「手元の書類を処理なさってからにしましょうか」
フランクに「欲張りすぎても失敗します」と釘を刺され、私は書類に専念した。国全体を巻き込む天災だったけれど、どの町や村も生活に困窮はしていない。一年の税を猶予したからよ。ケンプフェルトだけでなく、他の貴族家も同様の措置を行った。
壊れた橋を架け直し、崩れた崖を修復し、川の護岸工事も予定されている。災害による被害も減るでしょう。
「おかぁしゃま……おみじゅ」
「起きたのね、レオン。どうぞ」
しっかり身を起こすのを待って、水のコップを近づけた。両手で持って飲む姿は、すごく可愛かったの。絵に描いて残そうかしら。