作品タイトル不明
430.レオンの思わぬおねだり
帰ってきたヘンリック様に、今日の出来事を報告する。パウリーネ様の突撃訪問は、フランクから聞いたのね。何もされなかったかと尋ねる。
「パウリーネ様は、ユリアーナと王弟殿下の結婚を邪魔したと思って、謝ってくださいましたわ」
あなたも以前に口にしたでしょう? 悪い人ではないの。ふふっと笑って夕食後の団欒は、猫部屋で過ごした。どの猫も、人は怖いものではないと覚えてくれた様子。普段はいない人が手を伸ばしても、大人しく撫でさせた。
部屋へ戻る途中で、レオンはマーサと手を繋いで私達を振り返る。
「あのね、ぼく、いいこすゆ……あにゃ、ちょうだい?」
「ユリアーナを?」
あの子、モテ期なのかしら。首を傾げて問えば、ぶんぶんと首を横に振られた。違ったみたい。数回の問いかけの末、妹が欲しいの意味だと判明した。
「誰が教えたのかしらね」
てっきりフランクやイルゼが犯人と思って口にすれば、隣で申し訳なさそうに夫が白状した。
「俺だ」
「……ヘンリック様……」
叱った方がいいの? それとも許すべき? 自白はまだ続いた。
「レオンに、弟か妹ができたら嬉しいかと聞いた。すると妹がいいと」
妹と弟の区別がつかず、ユリアーナとユリアンを例えに出したらしい。それは……なんとも極端な例ね。
「では、お兄ちゃんになるレオンは、一人で眠れる?」
「がんがる!」
ユリアンが教えた敬礼をして、元気に私の部屋へ向かった。今日は夫婦の日だから、レオンは私の部屋で寝るの。もちろん、侍女達が付き添うので心配はいらない。
「抱き上げていいか?」
「重いですよ」
「いや、君は軽すぎるくらいだ」
首に手を回せば、抱き上げて寝室へ向かう。ベッドへ降ろされ、唇を奪われた。お返しとばかり、唇を舐めたら侵入してくる。そこからはあまり覚えていない。恥ずかしくて、嬉しくて、幸せで……。
明け方近くになり、眠っていた私は目を覚ました。小さな声が聞こえた気がする。ヘンリック様は寝ているので、起こさないようベッドを抜け出した。さきほど脱いだ寝着を身につけ、耳を澄ませた。
気のせいだったかしら。そう思った瞬間、小さな声がまた聞こえる。私の部屋? もしかして、レオン! 慌てて扉に手をかけ、そっと開いた。
「おか、しゃま?」
扉が重いと思ったら、すぐ近くにレオンがいた。どうやら扉でゆっくりと押したみたい。部屋を見回すと、困った顔のマーサがいた。いいのよ、と首を横に振ってしゃがむ。
「あにゃ……でき、た?」
「どうかしら。時間が掛かるのよ」
否定せずにぼかすと、レオンは鼻を啜った。辿々しく口にするのは、妹が欲しいけれど一人で寝るのも嫌……可愛い我が儘だった。マーサに退室の許可を与えて、寝室へ戻る。
レオンをベッドに寝かせれば、ヘンリック様が起きていた。
「おいで、三人で寝よう」
「うん」
乱れたシーツは私が引っ張って、それなりに整えていたけれど……幼いレオンを寝かせるのは気が引ける。次からはシーツの交換も考えておかなくちゃ。