作品タイトル不明
429.懸念は同じでした
「……あの……悪い意味じゃないのよ? でも心配になって」
切り出したと思った話は、どうやら言いづらい内容らしい。つい先日もこんなことあったわね。思い至ったのは、ヘンリック様の言い淀んだ姿。同じ内容のような気がするわ。
「ユリアーナが王弟ローレンツ殿下に求婚された件かしら?」
「え、ええ! そうよ、そうなの。私もユーリア様も、社交界を泳いできたから……先が見えてしまって、心配になったのよ」
パウリーネ様は、その場では「素敵ね」と微笑んで終わったらしい。ところが屋敷に帰って、娘と話すうちに気づいたのだとか。ヴェンデルガルト様は確か、ユリアーナと同じ年だったはず。あの方も賢いわね。私よりよほど優秀だった。
「ユリアーナは、恋愛結婚を目指していますの。御伽話のお姫様より、好きになった騎士様を選ぶでしょう」
まだ確定ではない。オイゲンが言い出せなくて、長引く可能性もあった。それでも、ユリアーナは決めたのだ。母のように愛情を注いで育てる妹の、言葉や態度の端に滲む本音を感じた。
「シュミット伯爵家は、権力と無縁なのが一番ですわ」
王家に関わるなら、一人だけ。エルヴィンかユリアンが、お側に仕える程度でよかった。王家に血を入れるなら、侯爵以上が相応しい。フォンの称号があるからこそ、高みを望んではいけないの。
微笑んだ私に、パウリーネ様は無言でお茶を飲み干した。作法を無視し、一気にカップを傾けて……大きく息を吐いた。
「ごめんなさいね。私も娘も、配慮が足りなかったわ」
謝罪の意味は見当違いだと思う。ただ、誠実に向き合おうとしてくれる姿勢が嬉しかった。隣に座って焼き菓子を齧るレオンは、きょろきょろしている。大人同士で突然謝ったので、何かあったかと気にしているのね。
「大丈夫よ、レオン。そのまま食べていて」
頷いたレオンは、リスのように小さく端から齧った。
「パウリーネ様も落ち着いてください。公爵家同士の婚姻と、実家の立ち位置は関係ありません。深読みなさらなくて平気です」
実家の過去の振る舞いやユリアーナとの会話をすべて教える必要はないが、掻い摘んでいくつかを話す。ユリアーナは自らの意思で、恋愛を選んだの。その決定に他者が口を挟んで、結果を捻じ曲げるのを許したくないわ。
「それなら……良かったのかしら。悪いことをしたと思って、すぐにお詫びしなければと馬車に飛び乗ったのよ」
「先触れは、いつ手配してくださったのですか?」
「それは……夫だと思うわ」
なるほど、パウリーネ様ではなく、リースフェルト公爵が慌てて手配してくださったのね。使者の方には、多めに褒美を与えるよう伝えておきましょう。