作品タイトル不明
424.後でお話があります?
玄関で擦れ違うように、オイゲンを見送る。ティール侯爵夫妻は、自ら馬車で迎えに来ていた。一般的に執事や侍従が迎えに来ると思っていたので、びっくりしたわ。
「二泊したら戻るから……まだ王弟殿下に返事はしないでくれ」
求婚騒動をユリアンに聞いたオイゲンは、必死に食い下がった。気圧される形で、ユリアーナは頷く。どちらにしろ、二泊程度の間に婚約が決定することはないから、と言い聞かせて送り出した。
やっぱりオイゲンは、ユリアーナに気があるのね。将来的には兄ゲレオンの補佐をする騎士になりたい。その夢もあるから、家族で話し合ってくると言い残し、渋々と馬車に乗り込んだ。ご両親が陰で笑ってるわよ。
「私ったらモテるのね」
「あら、知らなかったの? シュミット伯爵令嬢」
うふふと笑い、ユリアーナの独り言をまぜっ返す。にやりと笑った双子の兄ユリアンが「お前のお転婆を知っても求婚するなんて、イカれてるぜ」と揶揄った。当然、喧嘩になって追いかけ回す。本当にもう、お淑やかさの欠片もないわね。
「オイゲンはきちんと求婚できるだろうか。僕はローレンツ殿下より、オイゲンの方がいいな」
友人の馬車が出て行った門を心配そうに見つめるエルヴィンは、つい本音が漏れていた。ユリアンの発言もそうだけど、エルヴィンも不敬罪適用案件よ。そう指摘して、人前では本音と表情を隠すよう伝えた。
でも確かに、ユリアーナが王弟夫人になる姿は想像できない。表面上はお淑やかに振る舞っても、すぐボロが出るわ。
「あとで、話がある。義父上殿も同席してくれ」
ヘンリック様は渋い顔で口にした。何かあったかしら? 私は貴族同士の慣習に疎いから、先ほどの不敬罪くらいしか思い付かない。食後に話すと言われたのだから、素直に待ちましょう。
弟妹は離れに戻り、着替える予定だ。私からレオンを受け取ったヘンリック様は、お風呂に向かうみたい。まだ寝ているレオンは、砂だらけだもの。マーサが入浴の手伝いに向かったから、任せましょう。
「奥様も……着替えをなさった方がよろしいかと」
イルゼに促され、浴室へ歩き出す。砂が付いているし、ドレスで過ごす気もないのでちょうどいいわ。夜に入る分を前倒しした形ね。
ゆったりと手足を伸ばして寛ぎ、日暮れに赤くなり始めた壁を眺める。このまま眠りたくなっちゃう。でもお腹も空いてくるし、ヘンリック様のお話もあるわ。大きく息を吐いて吸い、気合を入れて立ち上がった。
「奥様、旦那様のお話でございますが……おそらく耳に痛い内容かと存じます。どうか最後まで聞いてくださいませ」
珍しく入浴の手伝いに入ったイルゼは、タオルで肌を拭きながら忠告めいた言い方をした。
「そうね、きちんと聞くようにするわ」
イルゼも理解しているなら、フランクも同様よね。もしかして、わかっていないのは私だけ? 恥ずかしいわ。