作品タイトル不明
425.権力は悪魔のごとく
食後の団欒が終わり、子供達はそれぞれに自室へ引き上げる。レオンはいつもよりはしゃいだせいか、すぐに眠くなった。あれだけ温室を走り回れば、眠くなるわよね。微笑ましく思いながら、レオンをベッドに寝かせた。
広いベッドに一人、丸くなって不満そうな顔になる。寝ているのに表情豊かだなんて、可愛くて狡いわ。犬のぬいぐるみを差し入れ、抱っこさせた。ぎゅっと抱きつくレオンの頬を撫でて、キスをする。
「おやすみなさい、レオン」
声をかけてから離れる。ヘンリック様とお父様は、先に執務室へ入った。追いかける形で、ノックしてから入室する。まだ話していないようで、お父様は寛いでいた。
「お待たせしました」
「いや。大丈夫だ」
応接用のソファーに座ったヘンリック様は、隣を叩いた。ここへ座れと示され、素直に腰掛ける。向かい合った一人掛けの椅子で、お父様は姿勢を正した。お茶を用意したフランクが、テーブルに並べていく。珍しいわ、侍女にやらせないのね。
「フランクはそこにいてくれ」
室内に残るよう言われ、頷いた家令は壁際に下がる。誰もお茶に手を伸ばさないまま、時間が経過した。大した時間ではないけれど、立ち上る湯気は消える。
「言い出しにくいお話ですか?」
「口出ししたくないが、重要な案件だ。悪く思わないで聞いてくれ」
イルゼの忠告が頭を過ぎる。お父様は何も言わず、首を縦に振った。
ヘンリック様が語り出したのは、ユリアーナの婚約問題だった。王の代理人を務めたヘンリック様から見ても、権力が偏り過ぎてしまう。
ティルビッツ侯爵家から王妃が出るのは構わない。公爵家の権力を削ぐ意味があるからだ。バルシュミューデとリースフェルト、両公爵家が婚姻することで筆頭公爵のケンプフェルトを含めて、王族より公爵家が優位になる。
この辺の権力構造は詳しくないので、素直に頷いて先を促した。
権力が公爵家に偏った状態で、もしユリアーナが王弟殿下と婚約すれば? 問う形で切られた先は、あまりよい未来ではない。さらにエルヴィンの側近登用、ローレンツ様と仲の良いユリアンがさらに彼と親しくなれば……。
「シュミット伯爵家は、ケンプフェルト公爵家を使って王家を乗っ取ろうとしている、などと噂されかねない」
没落寸前だった実家の建て直しに、私やヘンリック様が手を貸したのは事実だった。悪い方へ噂が広がれば、私が夫を騙して実家を王家に捩じ込んだように見えるわ。
ましてや、私が王太后マルレーネ様と懇意にしてきた。アマーリア夫人と親しく呼ぶあの方に、ご迷惑をかけるでしょう。
「オイゲンなら問題ないが、王家や公爵家との結婚は、諦めてもらうしかないだろう。彼女がローレンツ殿を好きなら申し訳ないと思う」
ヘンリック様は苦しそうに結論を口にした。玉の輿を夢見る少女は、その家柄と姉の婚家の実力ゆえに未来が限られる。なんて皮肉なのかしら。
でも……ヘンリック様が言ってくださらなかったら、取り返しがつかない事態を招いたわ。落ち込む夫の肩に触れ、私は
「ありがとうございます」とお礼を口にした。