作品タイトル不明
419. 持参必須の大判スカーフは
お気に入りに突進すると聞いたから、しばらく会わない間に飽きたなら納得だわ。ぽつりと呟いたら、ご本人に聞こえたらしい。綺麗な笑顔で説明された。
「夫に言われて、ヴェルのマナー講師に私も教わったの。人との距離感、好ましく思われる振る舞い方などが中心ね。そうしたら私の今までの言動が恥ずかしくて……ご迷惑かけたわ」
「いいえ。勢いのあるパウリーネ様も好きですよ。常にでなければ、貴族夫人も素で過ごせる時間があればいいですね」
いつも取り繕った顔で澄ましていれば、家族にも誤解される。ティール侯爵家のように、互いがすれ違う危険性もあった。家族と過ごすときや気の置けない友人と過ごす時間くらいは、許されていいと思う。
ヴェンデルガルド嬢は、愛称がヴェル様なのね。彼女はきょろきょろした後、肩を落とした。もしかして、ローラント様がいないから?
「お待たせしたわ。皆様、お揃いね」
王太后マルレーネ様へ、口々に挨拶を述べる。親しき仲にも礼儀あり、が染みついた私は貴族階級のこういった慣習は心地よかった。堅苦しい面も多いけれど、悪いことばかりではない。
「やはり公爵で参加なさるのは、ケンプフェルト家だけね」
ふふっと笑うマルレーネ様に、ヘンリック様はきりっとした顔で返した。
「最愛の妻が王太后陛下に呼び出されたとあれば、心配で仕事は手につきませんから」
「あら、私が悪女みたい」
からから笑い飛ばし、マルレーネ様は中央の長椅子に腰掛けた。今日はカールハインツ様とローレンツ様、末姫のルイーゼ様がお揃いなのね。
「れぉは?」
「レオンは、ランドルフ様と向こうで遊んでいますわ。ルイーゼ様もご一緒されますか?」
「いく!」
「ルイーゼ、お言葉は?」
「ごめしゃい。いってちます」
きちんと躾し直している途中みたい。ルイーゼ様は素直に言い直し、椅子から滑り降りた。スカートの裾が捲れているのを、侍女がさっと直す。立ち上がったユリアーナが、ルイーゼ様に手を差し出した。
「ご一緒させてください」
「いい、わよ」
ルイーゼ様はユリアーナと手を繋ぎ、温室の奥へ向かう。駆け出しそうになるも、ユリアーナに合わせてゆっくり歩いた。
「子供は元気ね。スカーフは持ってきていただいた?」
マルレーネ様の言葉で、さっと取り出す。四人とも膝の上に置いたところで、マルレーネ様は立ち上がった。
「以前、エプロンは無理だけど……巻きスカートを提案されたの。貴族夫人の流行にしたいから、巻き方を考えて頂戴」
今日のお茶会のテーマは、巻きスカートみたい。口にした私も忘れていたわ。立ち上がってスカートの上に巻くため、三角に折る。少しずれていても可愛いかも。試行錯誤しながら固定すると、感嘆の声があがった。
「私もやってみたいわ」
パウリーネ様はドレスの藤色に合わせ、青紫を用意したから似合いそう。上手に結べなくて、連れてきた侍女に後ろを留めてもらうユーリア様は「素材選びも重要ね」と笑った。しっかりした生地より、柔らかい生地の方が使いやすそう。
楽しむ夫人達をよそに、ヘンリック様はエルヴィンやお父様を交えて、陛下と歓談中。ローレンツ様も真剣な顔で聞き入っている。楽しいお茶会になりそうね。