作品タイトル不明
417.王宮へ向かう支度で朝から大忙し
翌朝は大忙し。昨夜もお風呂に入ったのに、また念入りに磨かれた。その間にレオンも入浴し、ヘンリック様と一緒に着替えたらしい。私は着替えだけで済まなかった。
化粧、髪、装飾品……次々と粉をはたいて、仕上げられていく。肌にもたっぷりハーブ水を塗り込まれた。女性の身支度は、本当に大変だわ。積極的に社交をなさる貴族夫人は、毎日のようにこれを体験するのよね。
尊敬しちゃう。
「奥様、左を向いてください」
「次は右へ顔を……ありがとうございます」
リリーに促されるまま、目を閉じたり開いたり。忙しく支度が整えられる。私は座っているだけで、着替えの時だけ立ち上がったくらいね。マーサも装飾品を磨き始め、他の侍女も手伝いに来ていた。
髪を結い上げながら、化粧も同時進行なんて。その手際の良さと協力体制に感心しちゃう。服や宝石の色に合わせ、毎回化粧は変化する。その知識もすごいわ。
「薄く唇を開いてください」
紅筆が触れて、さっと色がのる。顔にメリハリが生まれるのよね。目元は柔らかな緑を使い、グラデーションに仕上げた。翡翠に合わせたみたい。仕上がりに頷き、、半分結った髪も確認した。
ポニーテールのように、後ろに髪が垂れている。周囲を編み込んで、複雑な形に仕上がった。所々に真珠が飾られる。
「いかがでしょう」
「いつもながら、見事ね。ありがとう」
お礼を言って立ち上がる。途中で軽食を摘まんだので、食卓にはつかない。そのため、シュミット伯爵家も離れで食事を済ませているだろう。
「離れの方の準備は……」
「もうこちらに向かわれています」
イルゼの報告にほっとする。ユリアンが寝坊をするかと思ったけれど、さすがに大丈夫だった。王宮だから、簡単に遅刻できないのよ。
「オイゲンは留守番になるけれど、彼も実家へ戻る支度があったわね。手伝ってあげてね」
イルゼに頼んでおく。身の回りのものに加え、今回は手彫りのお土産を作っていた。壊れないよう梱包してもらわないと。
細かな采配はフランクやイルゼに任せ、私は廊下へ続く扉へ向かう。
「奥様、寝室でお待ちです」
「あら……そうなの?」
廊下ではなく、隣の寝室にいるのね。間にある扉を開いた。ここは本来、当主夫妻の部屋として作られていない。レオンが階段から落ちないよう、我が侭を言って部屋を直してもらった。その後、ヘンリック様も一階に越してきたので、今の形になったの。
扉はその時に作られた。開くと……立派な紳士と小さな騎士様が、微笑む天国みたいな状況で。二人が差し伸べる手へ、お淑やかに手を重ねて応じた。