作品タイトル不明
416.黒髪が羨ましくなるわ
墓参りを終えて数日、穏やかに日常が過ぎていく。王宮へ行く準備も整え、当日を迎えるばかりだった。
私達が王宮から戻ったら、オイゲンがもう一度実家へ帰る。ティール侯爵も仕事を早く切り上げ、息子達と語らう時間を作ると聞いた。ハンナ様、いろいろと公開し過ぎですわ。今度、柔らかく注意した方がよさそう。
装飾品も確認し終わり、試着を終えたレオンと歩き出す。最近は手を繋いで、騎士様のエスコートごっこがお気に入りらしい。抱っこを嫌がるようになって、少し寂しかった。成長している証だから、言わないけれどね。
「おかぁしゃま、ぼく……このくりゃい、おおちく、なた」
立ち止まって手を離し、両手をぐんと広げて示す。そこまで育ってないけれど、服のサイズが合わなくなったのは事実だ。成長したと嬉しそうに笑う、義息子の表情を曇らせる必要はない。
「そうね、大きくなって逞しくなったわ。きっと鍛錬のお陰よ」
「うん!」
ご機嫌でまた手を繋ぎ、レオンは意気揚々と踏み出した。明日の王宮でのお茶会に合わせ、今回は茶色系で揃えてみた。薄茶かチョコブラウンか迷って、今回は薄い色を選んだの。昼間だからいいわよね。
柔らかな色は、ミルクを入れ過ぎたカフェオレのよう。私の金髪がややくすんでいるので、地味に見えてしまう。だからアクセサリーは緑の翡翠を合わせた。
ヘンリック様も同じでいいと聞いたので、やはり淡い茶色だ。レオンに試着させて気づいたけれど、黒髪って何を着ても似合うのよね。黒い服だってシックに決まるし、羨ましくなっちゃう。前世では黒髪に思い入れはなかった。周囲が同じ色だったからだと思うわ。
今は金髪、赤毛、黒髪、銀髪、茶髪……中には紺や水色っぽい髪色の人もいる。髪色が違うと、似合う服の色も全く別だった。私もどうせなら黒髪がよかったわ。そんなことを考えてしまう。
チョコブラウンに金刺繍も素敵だけど、これは夜会で映えそうな気がした。そのため、今回は選択していない。柔らかな色だから、ブルー系の宝飾品でも似合ったかしら。
「おかぁしゃま」
「何? レオン」
足を止めれば、猫が庭にいた……え? 猫?! 驚いて窓に近づく。じっくり観察し、母猫アイではないかと判別した。
「リリー、あれ!」
「はい、最近よく顔を見せる野良猫です」
「のら、ねこ……」
繰り返して安堵に胸を撫で下ろした。アイが逃げ出したと思い、使用人達も捕獲を試みた。ところが、猫部屋にはまったり寛ぐアイの姿がある。別猫と判明し、今は水や食事を分けながら様子見とのこと。
「そう……びっくりしちゃった」
「あい?」
「違う猫ちゃんよ」
レオンにも同じ猫に見えるのね。本当に模様がそっくり。三毛の親子でも、アイとミアの模様が違うから……あんなに似ていると間違えちゃうわ。
いずれ、慣れたら撫でさせてくれるかも。レオンとそんな話をしながら、絨毯の部屋へ向かった。