軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

415.甘え下手な大型犬を撫でる気分

ベルントの選んだ店は美味しかった。さすがにケンプフェルト公爵家の執事ね。管理人を派遣しているとはいえ、他領の飲食店まで網羅しているなんて。出かける前に情報を仕入れるのかしら。

ピザは前世の私の知る食べ物と違った。そうね、近いのはブリトーかしら。名前はピザでも、巻いて食べる料理だったの。味はピザが近いから……前世のピザをそのまま巻いたら同じかも。似てるだけに、頭が混乱しそう。

「ピザ、美味しかったね」

「手が汚れるから貴族向きじゃないな」

味が気に入ったユリアーナと違い、オイゲンは手で食べるのが気になったみたい。一般的な貴族だと、紙で巻いても手で食べるのは気になるわね。

「でもさ、歩きながら食べられるし」

「ユリアン、貴族は歩きながら食事をしないんだ」

貴族らしからぬユリアンの発言に、エルヴィンが苦笑いしながら首を横に振る。

「あれに似ていたな。ガレット!」

お父様は懐かしそうに、思い出の食べ物の名を口にした。お母様がいた頃、作ってくれた。お母様のお祖母様と食べたと聞いたわ。ガレットは蕎麦粉を使うから、我が家で頻繁に食卓に上がった。蕎麦粉は、小麦粉より安いから。

「ガレットなら、カトラリーを使うからオイゲンも平気でしょう。今度、作ってみましょうか」

「アマーリアの手料理か!」

ヘンリック様の後ろに大きな尻尾が見えるわ。全力で振っている。エスコートされて馬車に乗り込む私は、手を伸ばしてレオンを受け取った。お父様が抱いて運んだレオンは、お腹がいっぱいになったらお昼寝中。疲れたのね。

「リリー、蕎麦粉を用意して頂戴。明日の朝、焼くわ」

手配するベルントやリリーが動き出す。レオンを奥へ寝かせる間に、家族が揃った。馬車は屋敷へ向けて走る。揺れる馬車で、ヘンリック様は私に寄り添うように横たわった。でも頭を乗せたり、要求したりしない。

甘え下手な犬、そのものね。撫でて欲しいのに、遠慮がちに手のそばに頭を寄せるだけ。そんな大型犬に見えてしまう。レオンはよく寝ているから、平気よね。私は手を伸ばして、ヘンリック様の黒髪に触れた。

手櫛で梳くように動かし、頬を包むようにして止める。互いの温もりがじわじわと伝わり、溶け合った温度が重なった。

ふと、静かな家族が気になって顔を上げる。皆揃って、こちらに背を向けていた。じろじろ見たら失礼と考えたのはわかるけれど、逆に恥ずかしいわ。手を離そうとして、両手で包み込んだ。

覗き込んだ先で、ヘンリック様は目を閉じて微笑みを浮かべている。この顔を曇らせるくらいなら、私の羞恥なんて大したことない。だって、お父様とお母様も、キスや抱擁を子供の前でしていたもの。

幸せな夫婦の姿は、別に恥でもなんでもない。でも赤面するのは仕方ないわ。赤くなった頬を俯いて隠しながら、ヘンリック様の額に唇を寄せた。