作品タイトル不明
413.お母様を偲ぶ祭壇で
馬車はゆっくりと停止した。ノックの音で、一番扉に近いお父様が先に降りる。エルヴィン、ユリアン、ユリアーナはオイゲンの手を借りて。顔が真っ赤だけど、もしかしてそういうこと?
本気なら応援するわよ。単に照れているだけかもしれないけれど。レオンは、えいっと勢いをつけて飛び出そうとして、ヘンリック様に後ろから捕獲された。
「危ないわよ」
「へぇき!」
じたばたと手足をばたつかせて暴れるレオンは、ひとまずベルントが預かった。私に手を差し伸べる夫に微笑み、ゆったりと降りる。裾を踏みそうで危なかったわ。フレアスカートで膝下丈くらいがいいんだけど、貴婦人のドレス丈は危険よ。
我がシュミット伯爵家の領地の端、ここは人が住んでいない丘の先だった。代々の伯爵家当主夫妻が眠る墓所は、石造りの廟だ。入り口の岩は仕掛けがあり、小さな石を落とすことで開く。他家の者がいる前では開けないのが家訓だけれど、お父様はヘンリック様やオイゲンに目を背けるよう言わなかった。
彼らも家族の一員、そう考えたのかしら。ご先祖様がここに墓所を作ったのは、見晴らしのいい丘だからではない。過去の記録によれば、ここから見える位置に都があったのだ。もう滅びて跡形もない、立派な都を見守る場所を選んだ。
フォンの称号は、王家より古く存在する家ばかり。そう伝えられてきた。実際は少し違う。今の王家より前に存在した、別の国の王族だった。ケンプフェルトも、シュミットも。もう一つのティルビッツ侯爵家も、過去には王家に連なる血筋だったの。
これは現王家も認めている事実だけれど、大々的に公表はされていない。過去の栄光だし、亡国の恩恵もないのだから。公表する必要性もなかった。各家はそれぞれの誇りを胸に、生きてきた。それだけなの。
元王都を見下ろす丘は、ご先祖様の王宮があったのかも。そんな夢のある場所だった。石造りの建物特有の、ひんやりした空気が漂ってくる。けれど、不思議とカビ臭さはなかった。
中に入り、すぐの祭壇に花と水を供える。それから各自選んだ供物を並べた。手紙を書いたのは私、レオンは絵を描いたわ。エルヴィンとオイゲンに抱えられたユリアーナは、刺繍したハンカチを置いた。身長の関係で、ユリアーナを支える役に就けなかったユリアンは、焼き菓子を選んだのね。
エルヴィンは私より分厚い手紙を、その隣に木彫りの小さな像を置くオイゲン。彼は手先が器用だから、自分で彫ったのかもしれない。お父様は一枚のドレスを供えた。柔らかな薄紫の絹は、お母様のサイズで仕立てたのかしら。
ヘンリック様は胸元から取り出した一枚の紙を、左端にそっと差し出した。私達の結婚証明書だわ。貴族の婚姻を証明するために発行される、王家の印が入った公式書類だった。これは控えで、原本は王家が保管している。
「不甲斐ない私の子供達は、皆、立派に育ってくれた。お前のおかげだ……」
祭壇に話しかけるお父様の声に重なって、涙が頬を伝った。