作品タイトル不明
409.溢れた夢のかけら達
夕食後の団欒の間で、私は珍しく先頭を切って話し始めた。
「私ね、お母様が元気だった頃……魔法使いが夢だったのよ。絵本に描かれた物語の主人公はお姫様で、これは私ではないと思ったの。だから願い事を叶えて、皆を幸せにする……脇役の魔法使いになりたかったの」
「ああ、覚えているよ。お姫様になればいいと返した私に、泣きながら抗議したな」
懐かしむように目を細めたお父様は、ほわりと微笑んだ。覚えていないと眉尻を下げるエルヴィン、それはそうよ。まだレオンくらいの年齢だもの。特別じゃない日常での、小さな会話だった。
「俺はさ、ピアノで食っていけたらいいな。剣術も好きだから迷うけど」
ユリアンが続いて夢を語る。いつの間にか、テーマが夢になっていた。ユリアーナは髪を指先で弄りながら、口を開いた。
「私はお姉様みたいに、素敵な旦那様と結婚したいの。すごく私を大切にしてくれる人がいいわ」
「お金持ちじゃなくても?」
「そりゃ持ってる方がいいわよ」
悪びれずに言い切るユリアーナに、皆が大笑いだ。突っ込んだユリアンなんて、呼吸が苦しそうよ。笑い過ぎて苦しそうなのは、オイゲンも同じだった。
「僕はその点、ごく普通だよ。お父様の跡を継いで伯爵家を立て直す。可愛いお嫁さんをもらって、レオンみたいな子供が欲しいな」
「ぼく?」
「そう、レオンみたいな……でもレオンはお姉様の子供だからね」
「うん」
両側に体を揺らすレオンは、笑顔で返事をした。どこまで理解しているのかしら。
「俺もいいか?」
ヘンリック様が口を挟む。皆が聞く姿勢を見せれば、恥ずかしそうに、けれどはっきりと声に出した。
「実は……子供の頃、執事になりたかった。両親がいなくて寂しい俺の頭を撫でてくれたのは、祖父母とフランクだけだったから」
彼のようになりたかった。そう告げたヘンリック様は、幼い子供のように笑った。何も知らない子供がヒーローに憧れるのは当然で、それがフランクだった。当時の彼は家令ではなく、執事だったのね。
「今も同じ夢ですか?」
泣きそうになりながら尋ねれば、ヘンリック様は胸を張って答えた。
「執事もいいが、妻はアマーリア、息子はレオン。ここは譲らない」
いい雰囲気になったところで、お茶を一口飲んだお父様が呟いた。
「私は学者になりたかったぞ。まあ、伯爵家を傾けて終わりそうだが」
自嘲を交えた発言に、エルヴィンがさらりと返した。
「今から学者になっていただいて構いませんよ。僕はちゃんと夢を叶えますから」
ふふんと言い放つと、オイゲンが転げ回った。笑い過ぎて呼吸困難になってるけど、放置して大丈夫かしら。笑い疲れて、ようやく立ち直る。
「ひっ……はは……っ、ふぅ……疲れた。俺もいいかな。兄上の片腕として頼りにされる騎士になりたいと……思ってたな」
過去形にした途端、エルヴィンが遠慮なく頭を叩いた。
「今からでも叶えろよ」
ぐっと堪えるオイゲンは、忙しなく瞬きしながら頷く。
「さあ、次はレオンの番ね。将来は何になりたいの?」