作品タイトル不明
408.ぐずっても天使は可愛い
元気よく遊んだレオンは、その分だけ長いお昼寝をした。やっと起きたら、もうお出迎えの時間よ。珍しく寝起きでぐずり、じたばたと暴れた。宥めて抱きしめ、キスをいくつも降らせて運ぶ。
「レオン、お父様のお迎えは小さな騎士様の大切なお仕事なのよ。今日一日、お父様は立派に勤めてきたの。お帰りなさいをするのは、お屋敷を守ったレオンの役目よ」
尖った唇を指先でむにっと押し返す。
「小さな騎士様はお役目を果たせないのかしら?」
「ううん」
目が覚めてきたのか。はっきりと返事をした。玄関ホールで、ユリアンが首を傾げる。私達の様子が不思議だったのね。
「珍しいな、レオンが赤ちゃんだ」
「ちあう!」
あらあら、せっかく機嫌が上向いてきたのに。ユリアンの一言で元に戻ってしまった。首筋に顔を埋めて唸るのが擽ったいわ。ぐずって駄々を捏ねても、私の天使は可愛いままね。
「赤ちゃんは鍛錬できないから、明日はなしだな」
「やだぁああああ!」
叫んで泣き出した。もう……もっと上手にやって頂戴。ユリアンを睨めば、任せろと指で合図してくる。全然信用できないわよ。こんなに泣かせて、どうするの。
「鍛錬できる人」
「あい」
鼻を啜りながらも、レオンが即答する。小さく手も挙げた。
「おやおや? 騎士様の声がするのに、赤ちゃんしか見えないぞ。騎士様ならきっと、リア姉様のような淑女をエスコートしているはずなのに」
変だな〜、嫌味にしか聞こえないけれど、レオンには効果があった。降りると合図し、しっかり立って私の手を握る。それからもう一度ユリアンに「あい」と手を挙げた。
「おお! 立派な騎士様じゃないか。明日の鍛錬もよろしくお願いします」
「うん」
弟妹を育てた私が言うのも変だけど、子供って独特の感性やルールがあるのよね。何かがきっかけで大きく成長する。レオンは年上と触れあい、複数の子供が一緒に遊ぶことで、何かを得ているんだわ。
私が知るよりずっと、大人に近づいたみたい。イルゼやフランクを含め、この場にいる使用人は誰も口を挟まない。それを冷たさではなく、信頼からくる温かさだと受け取った。
「ばちゃ!」
音が聞こえたと興奮気味に知らせるレオンに、凄いわと褒めて黒髪を撫でる。猫のように目を細める姿を見て思い出した。今日の猫部屋の掃除、私だったわ。後でこっそり掃除に行きましょう。
「おとちゃま?」
「ええ、そうよ」
玄関の扉が開き、ヘンリック様が元気な姿を見せる。お帰りなさいと皆で声をかけ、今帰ったと返事を聞く。ごく当たり前のことなのに、普通の日常なのに……胸がいっぱいになった。
お母様、私……あなたのように素敵な母親になれたかしら。あの頃のお母様の気持ちと笑顔の理由が、ようやく実感できました。帰宅の挨拶と称し、額にキスをする夫にお返ししながら、穏やかな日々に感謝した。