作品タイトル不明
405.恥ずかしさより甘くて
ようやく家族で食卓を囲めるわ。レオンと手を繋いで食堂へ向かう私は、反対の左手をヘンリック様と繋いでいた。真ん中にレオンの方がいいんじゃない? そう提案したら、君に触れていたいと言われた。
また赤くなって、心臓が痛いくらい高鳴る。そういう甘い言葉、どこで覚えてきたのよ! 私の発言に意外そうな顔をして、蕩けるような甘い笑みで答える。
「思ったまま、素直に口にしただけだ」
どうやら部下の入れ知恵らしい。夫婦仲が良いことで有名な文官に、コツを尋ねたんですって。そうしたら「思ったまま、感じたままに伝える」と返され、納得したとか。
すぐに実践するところは可愛いけれど、そもそも今までもそんなことを思っていたの? 優しくはなったけれど、ここまで顕著じゃなかったのに。
困惑しながら扉を開けば、すでに皆は揃っていた。私達が最後みたい。
「遅くなってごめんなさいね」
「ううん、気にしないで。お姉様が幸せそうで安心したわ」
「そうだよな。突然食卓に来なくなるし、レオンを預けられるし。リア姉様が寝込んだかと思ったよ」
双子の意見に、ある意味間違っていないと苦笑いする。寝込んだのとは違うけれど、ベッドから降りられなかったのは事実よ。それにレオンを預かってくれて助かったわ。
「二人とも、夫婦のことに口を挟むと馬に蹴られるぞ」
あら、その諺はこの世界にもあるのね。知らなかったわ。
「ええ? 豚じゃなかった?」
「違うわよ、ユリアン。牛よね」
……まとめて四つ足の動物ってことで。
「ははっ、面白いな」
オイゲンが笑うと、エルヴィンが溜め息を吐いた。
「正しくは犬に噛まれるだけど」
冷静に訂正した。それは私も知らなかったわ。共通点はやっぱり四つ足ね。でも蹴られるんじゃなく、噛まれるみたい。
緊張がほぐれたところで、食事が運ばれる。温かな料理を囲み、取り分けながら雑談をした。久しぶりの感じに頬が緩む。
「アマーリア……」
「先にレオンから」
口を開ける夫を待たせ、レオンに鶏肉を食べさせる。レモンバターのソースが垂れそう。それからヘンリック様へ、同じように鶏肉を差し出した。嬉しそうに食べたヘンリック様から、同じ鶏肉が返ってきて……あら? 何かおかしくないかしら。
首を傾げながら咀嚼する私を、家族がちらちらと見ては目を逸らす。レオンは仕方ないとして、ヘンリック様は……ぶわっと血が上る。今までは許容できた羞恥が、数倍になって襲ってきた。私達が夫婦になったと皆が知っているのに、食べさせ合うなんて……。
「アマーリア、これも……」
「ヘンリック様はご自分で食べてください」
口にした途端、ショックを受けた顔でカトラリーを落とした。拾い上げるベルントが、小声で囁く。
「奥様、旦那様が泣いてしまわれます」
そうよね、私もそう思ったわ。見開いた目が潤んでいるんだもの。迷ったけれど、結局甘いのよね。フォークに豆を載せて差し出した。