作品タイトル不明
404.男の子の友情って狡いわ
ヘンリック様と愛を交わした夜から、二日目の午後……思わぬ来客があった。オイゲンのお母様、ハンナ様よ。客間へ通し、私はオイゲンを連れて立ち会った。幸いなことに、ヘンリック様も同席してくれる。
「ケンプフェルト公爵家のご厚意、シュミット伯爵家の皆様の優しさに甘えてしまいました。オイゲンを預かっていただき、本当にありがとうございます。台風による被害で予定より遅れましたが……ようやく準備が整いました」
丁寧な挨拶から切り出し、息子を引き取る話へ繋げる。ハンナ様は落ち着いていた。微笑みを湛え、我が子に優しい眼差しを向ける。
少し戸惑った顔をしているのは、オイゲンだった。いつも兄と比べられ、出来が悪いと叱られてきた。態度の違いを頭で理解しても、感情がついていかない。若いんだもの、そんなものよ。ぽんと肩に触れて小さく頷く。大丈夫よ、嫌ならまた戻ればいいわ。
「オイゲン、あなたが選ぶ番よ。ハンナ様は戻ってきてと示した。オイゲンはどうしたいの?」
「戻り、ます……でも」
「時間が欲しいのね。こういうのはどうかしら。しばらく、往復しながら暮らすの。実家に数日泊まりに行って、またこちらに泊まる。騎士の宿舎みたいでしょう?」
ふふっと笑う私に、オイゲンはほっとした顔で肩の力を抜いた。ハンナ様は驚いた顔をした後、何も言わずに二度頷く。それでいいと同意した母親に、オイゲンは自らの口で伝えた。
「迷惑をかけますが、まだエルヴィンやユリアンと一緒に学びたいのです。ユリアーナ嬢とも街へ行く約束をしていますし……」
「オイゲンの好きにしなさい。迷惑なんて思わないわ」
ハンナ様は感極まった様子で、ハンカチを取り出した。滲んだ涙を吸ったハンカチを、握りしめる。
「ゲレオンがね。声を荒らげて怒ったの。私達のオイゲンへの接し方が悪い、と……初めてで驚いたわ」
ぽつりと呟いた声に、私達が聞いてもいいのか困惑する。でもハンナ様はそのまま続けた。
「大人しくていい子だと思っていたけれど、あんなに感情豊かに怒る姿を見て……ふふっ、私ったら嬉しくて」
想像と違う方向へ話が進む。
「オイゲンは素直に感情を出したけれど、ゲレオンは呑み込んできた。それを私達に見せてくれたのよ。あなたと話したい、と言っていたわ」
やっと家族になれたの。そう言って嬉しそうに唇を緩ませた。ハンナ様は吹っ切れた様子で、男の子は親の手を離れるのが早いわと嘆く。
「いつなら迎えに来てもいいかしら」
「二日後、でいいかな」
「わかったわ」
挨拶をして帰るハンナ様を見送り、昨日の朝に先触れがあったと知る。私に話していなかっただけみたい。
すぐにエルヴィンが駆け寄り、どうだったかと尋ねる。答える隣で、ユリアンが「土産を頼む」と茶化した。小突かれながら、ユリアンは嬉しそうだった。こういうところ、男の子の友情って狡いわ。