作品タイトル不明
400.いつもと違いすぎて怖いわ
食事を終えたのは、いつもより遅い時間だ。レオンは目を擦って、ぐずり始めた。
「やぁっ!」
抱っこは嫌だ、でも歩いて行くのも無理。無茶な要求をするレオンに、あらあらと眉尻を下げる。困ったわね。このまま眠ってくれたら運べるけれど……。どうしようか迷う私より早く、ヘンリック様が動いた。
「こういうのはどうだ?」
ひょいっと脇に抱えて歩き出す。まるで荷物みたいな感じ……きょとんとしたレオンは、ぶらりと揺れる自分の手足を見ながら廊下へ。状況を理解して「やだぁ」と叫んだ時には、もう寝室にいた。手際が良すぎて、私も驚いたわ。
「風呂に入らないのか?」
「やだ」
「それなら寝ていいぞ」
靴を両方脱がせて、ベッドの中央に横たえる。着替えもさせていないのに? レオンはくるりと丸くなり、手足を抱えるような姿勢で動かなくなった。少しして様子を見れば、もう寝ている。そんなに眠かったのね。
これでは、お風呂に入れようとしたら騒ぐでしょうし、逆に目が冴えて寝なくなったかも。リリーとマーサが近づき、ささっとレオンの着替えを済ませた。ぐっすり眠るレオンは起きなくて、その間にお風呂に入る準備をする。
「寝る前に大事な話がある」
「ええ、わかりました」
お風呂を出るのは彼の方が早いはず。いつもより早めに出よう。そう伝えて、リリー達とお風呂へ向かった。髪を洗って乾かし、ハーブの香りがするお湯で寛ぐ。肌が色づいた辺りで上がり、湯冷めしないよう着込んだ。
間の扉を開けて寝室へ入れば、まだヘンリック様がいない。首を傾げて、早めに上がりすぎたのかもと苦笑いした。リリーが髪を丁寧に梳いて、香油を馴染ませる。薔薇かしら? いい香りが広がった。
腕や首筋にも、温めた香油が塗り込められる。こちらは違う香りだけど、両方一緒でも平気なのね。尋ねたら、リリーが教えてくれた。合わせて使うよう、最初から香りを計算して作るみたい。凄いわね。
それって高いんじゃないかしら。普段使いするものなの? でも筆頭公爵家でお金があるから、いいのかも。さすがにこれは聞けなくて、首を横に振った。考えを振り払う仕草に、マーサが言葉を足す。
「普段は若様がおられますので、省略させていただきました」
「そうなの」
……レオンがいると省略? 香りがしてもあの子は気にしないと思うけれど。いい香りだと褒めてくれるはずよね。
「待たせてすまない、アマーリア」
ガウン姿のヘンリック様の声に、リリーが一礼して香油を片付ける。なぜかマーサがレオンを抱き上げた。すやすやと眠るレオンに起きる様子はない。
「どうしたの?」
「今夜はお話し合いがありますので、隣室で私が付き添います。おやすみなさいませ。旦那様、奥様」
「ああ、頼む」
もしかして、ヘンリック様が命じていたの? レオンを連れたマーサが私室である隣室へ下がった。一応、あの部屋もベッドはある。マーサが付き添うなら心配はいらない。でも、ヘンリック様が何をお話しされるのか、怖くなってきたわ。