作品タイトル不明
392.欲しいものを手に入れたわ
ヘンリック様の蜂蜜は、小さな小瓶が三つ。うち一つを出品したそうよ。私とレオンに残りを渡したら、ご自分の分がないわ。
「レオン、私と半分こしましょう」
「やっ、ぼくの、おとちゃま、はん、ぶんすゆ」
お父様と半分にするの? 首を傾げた。ヘンリック様はまだ解読中みたい。
「お父様と半分にするのね。お母様は一つもらっていいの?」
「うん」
胸を張るレオンの言葉を、翻訳して伝えた。ヘンリック様はなるほどと頷いた後、レオンを抱き上げる。
「そうか、俺と半分してくれるのは嬉しいな」
「この、くぁい」
瓶の下の方を指で示す。レオン、それは半分じゃないわ。よくて二割よ。くすくす笑いながら、混ぜて分け合えばいいと思った。それもまた楽しい思い出になるわ。
「腕は痛みますか?」
レオンを抱き上げたので、ちょうど触れるのではないか。心配になって尋ねる。首を横に振るヘンリック様に、痛みに耐える様子は見られなかった。
「もう三日前の話だ」
他の人が並んで商品を選ぶ間、蜂の巣退治の話を聞く。レオンにとっては冒険譚だったようで、興奮して甲高い声を上げた。
「すっごぉい」
「レオンは真似してはダメだ。あれは大人になるまで、触ってはいけない。約束できるか?」
「うん」
興奮していたけれど、真剣に聞いて頷いている。管理人や庭師がいる公爵邸で、蜂の巣に出会う確率は低いでしょう。でも小さな巣なら、見落とすこともある。うっかり触れないよう、レオンはヘンリック様と約束した。指を絡めての約束が嬉しかったのか、にこにこと笑顔だ。
「皆は何を選んだのか、気になるわ」
ユリアーナは刺繍の施された小さな箱、おそらく薬入れか何かね。オイゲンはレオンの絵だった。そういえば、出品枚数が複数だったわ。ちなみに、残る絵はマーサとリリーが確保した。僅差で敗れたお父様が悔しそう。
そんなお父様は写真立てくらいの小さい額を購入。いずれレオンに似顔絵を描いてもらって、入れたいそうよ。あの写真立て、オイゲンが作った作品じゃないかしら。
エルヴィンは侍従が持ち込んだ羽ペンにした。ほぼ使っていなくて、もったいないので出したとか。意外な物を選んだのが、ユリアンだった。薔薇の花束……色鮮やかなそれを抱えて現れ、私達に一本ずつ分ける。
「自分の手元に残らなくていいの?」
「ん? ああ、いいんだよ。残ったらドライフラワーにしてくれるって、侍女さんが言ってたし。皆で胸元に飾ればカッコいいだろ」
大勢を引き連れて遊んできたから、分け合うことを当たり前にこなす。貴族らしい育ち方のオイゲンには新鮮だったようで、もらった薔薇を嬉しそうに眺めた。レオンの分は、私が棘を折る。
「ぼく、かこいい?」
「ええ、カッコいいわ。もちろん、ヘンリック様も」
物言いたげな目をする夫も褒める。二人一緒の時は、褒め忘れないように気をつけなくちゃ。イルゼは小さなガラスの塊を選んでいた。色が夫フランクの瞳の色と同じだったんですって。ロマンチックね。
ベルントは侍女お手製のマフラーを。御者台の冬は厳しいんですと、実用性重視だった。皆が満足そうで、私達も嬉しくなるわ。