作品タイトル不明
387.危険回避で苦肉の策
街では台風が通り過ぎると、特別な市場が立つらしい。侍女の一人から聞いて、イルゼに聞いたら彼女も知っていたわ。
台風の後に、水浸しになった根菜類を引っこ抜いて大安売りするの。こっちは私も知っていた。だって以前、よくお世話になったから。食べ盛りが三人もいれば、食費が安くなるチャンスは見逃せなかった。
今回の市場は、販売する物品が違うらしい。野菜や肉はもっと早い段階で安売りされて、台風の翌日から買えたわ。大きな商店や倉庫に被害が出ると、その在庫一掃セールが始まる。外箱が濡れた装飾品だったり、水浸しになった食器だったり。
正規品として販売できなくなった、訳あり品セールね。当然、貴族はあまり興味を示さない。普段は手が届かない品が安いとあって、生活必需品は人気があるんですって。
「ぼくも、おまちゅり」
「うーん、難しいわね」
この屋敷にいるから気づきにくいけれど、台風などの災害の後は、疫病が流行るのよ。ヘンリック様も対策に追われているから、心配させたくないわ。でもお祭りに行きたい気持ちも理解できる。約束したのに収穫祭は行けなかったし。
「このお屋敷の中で、お店をしたらどうかしら」
ユリアーナが提案したのは、前世の保育園で見かけた「お店屋さんごっこ」だった。これなら敷地から出ないで済むし、同じような体験ができる。使用人達も声をかけて……そうね、バザーのようにしたら楽しめるかしら。
実際のお金を使うか迷ったけれど、レオンがお金の価値を知らずに育つのも危険だった。まだ早いけれど、何かを得るためにお金が必要だと教えておきたい。
「いい考えだわ。イルゼやフランクも巻き込みましょう」
無理かもしれないけれど、ヘンリック様にも連絡を送った。数時間でも参加できたら、いい思い出になるもの。連絡しない選択肢はない。見物を続けるレオンの隣で、私とユリアーナは次々と案を出した。ユリアンが時々口を挟み、普段は遠慮がちなお父様も加わる。
満足するまで見物したエルヴィンとオイゲンが合流する頃には、お店屋さんごっこの計画はほぼ固まっていた。
「イルゼを先に巻き込みましょう。リリーも根回しをお願い」
「承知いたしました」
楽しそうに笑う彼女も、同僚や後輩に情報を伝えに行く。もちろん、お茶のカップを片付けるついでに。東屋で始まった相談が煮詰まったところで、屋敷へ引き上げた。
「ねえ、イルゼ。お願いしたいことがあるの」
笑顔で切り出した私に、イルゼはさっと目を走らせる。ご機嫌な子供達の様子に、これは勝てないと苦笑が浮かんだ。楽しい催しになる予定だから、協力して頂戴ね。