作品タイトル不明
386.屋敷の修繕はほぼ終わりね
予定より一日遅れで、ヘンリック様は王宮へ向かった。倒れた樹木は撤去され、道は通れると連絡が入ったのだ。馬に乗った使者の人が来るのだから、昨日はさぞ慌てたに違いない。気の毒に思うけれど、彼を休ませてあげられてよかったわ。
見送った後、フランクから意外な話を聞いた。もし昨日のヘンリック様が予定通り出ていたら、倒木の前に通過できていたと。予測でしかないので、詳細な時間帯は不明よ。でもレオンが駄々を捏ねたのは半刻程度。
木が倒れたのは、ヘンリック様が現場に到着する十分前。つまり危険を察知して呼び止めたのではなく、休ませるために倒木を待った形だ。この話に、皆で顔を見合わせて……口に人差し指を立てる。しぃ……誰も何も知らないわ。少なくとも、ケンプフェルト公爵家の見解は、何も知らなかったになるの。
窓ガラスが新しく到着し、次々と嵌められていく。その工事風景が珍しくて、レオンと一緒に東屋で見物した。割れたガラスの片付けは、居住区域を優先したの。だから普段は使わない客間や倉庫は後回しにされた。
台風の後、一回も雨が降らなかったのも運がいいわ。順番に片付けていた屋敷の修繕も、これでひと段落ね。離れは数枚のガラスが割れた程度で、煉瓦造りの建物は無事だった。周囲が林で、風雨を遮ったのも一因ね。
その点、本邸は真っ向から風を受けてしまった。暴風雨で飛んできた物がぶつかり、ガラスの損害は大きい。この東屋のように、林を背負う方がいいのかしら。でも普段の日当たりも影響しちゃうのよね。景色も悪くなるし。
代々、この状態で屋敷を維持してきたなら……弄る必要はなさそう。
「すごぉい! がらしゅ! いっぱぃ、いっぱい」
レオンは大興奮だった。東屋の椅子に立ち上がり、低い仕切りを掴んで叫んでいる。靴はマーサが脱がせてくれたので、叱らずに好きにさせた。
「凄いわね」
同意すると、レオンは笑顔で頷く。職人が透明のガラスを運んできて、窓枠に嵌めていく。木製の枠は細い溝が切ってあり、そこへ滑り込ませるのだ。その光景がレオンには魔法のように映るみたい。
一瞬でガラスが窓になる。枠の上部を嵌めて、数回叩くと固定された。その窓枠を建物に嵌めていくのは、また別の職人だった。数が多いので、手分けして行っている。
流れ作業は見事で、ついつい見入ってしまった。
「お姉様、こんなところに……窓の修理を見ているの?」
「うわぁ、ここから全部見えるじゃん。いい場所だ」
双子が合流し、後ろからついてきたお父様がユリアンの頭に拳骨を落とす。
「言葉遣い!」
「いてっ」
いつもの光景ね。平和で……あら? エルヴィンとオイゲンはどうしたの。
「あの二人なら、ほら……もっと近くで見てるよ」
ユリアンが指差す先には、職人の邪魔にならないよう注意する二人がいた。職人に手が届きそうな距離で、ガラスを積んできた馬車の前にかがむ。少ししたら、こちらに合流した。お茶を用意するリリーが、さっとカップを追加する。事前に全員分用意していたのね。さすがだわ。
「何をしていたの?」
「ガラスを割らずに運ぶ車輪が気になったんです」
あら、確かにそうね。人が乗る馬車に応用したら、もっと乗り心地が良くなりそう。そんな話をしたら、フランクに「もう応用されています」と返されちゃった。