作品タイトル不明
384.いつもと違うお見送り
「やだぁ!」
レオンは朝から、ご機嫌斜めだ。ヘンリック様が王宮へ仕事に向かうと説明しても、まったく聞く耳を持たない。行っちゃダメと全身で訴えた。抱き上げた私の腕の中で突っ張り、背を反らせるから危ない。
「どうした。今日は騎士様じゃないのか?」
「……やっ」
首を横に振り、王宮に行くのが気に入らないと訴える。久しぶりに会って、何か感じることがあったのかしら。ヘンリック様がレオンを受け取り、ぽんぽんと背中を叩いた。
「理由を教えてくれ」
「……もういい」
今度は行ってもいいと言う。拗ねて唇が尖っているけれど、大人しくなった。不思議に思いながらも、このタイミングで出かけないと。また泣いちゃうわ。
「行ってらっしゃいませ、ヘンリック様。無理をなさらないでくださいね」
「行ってくる、アマーリア。レオン、お母様を任せるぞ」
「うん」
素直に頷くレオンは、さきほどの態度が嘘のようだった。いなくなるから機嫌が悪かっただけ? 朝から王宮へ向かう馬車を見送り、エルヴィンの勉強を手伝う。レオンは一人で粘土を捏ね、母猫アイを作ると言い出した。モデルのアイを見に行くレオンに、ユリアーナが付き添う。
オイゲンは数式をすらすらと解いて、歴史書を前に唸っていた。彼は理数系かも。平均にこなすエルヴィンに、質問を始めた。二人で話している間、私はユリアンの様子を見に行く。お父様がかかりっきりで、貴族のしきたりを教えていた。
すでにユリアーナは履修済みなのよ。決まり事が多くて、複雑な手順があって、ユリアンはこういうの苦手そう。実は私も得意じゃなかった。ちらっと見て、さっと離れる。
「あら、馬車の音……」
勉強部屋へ、困惑顔のイルゼが現れた。
「奥様、旦那様がお戻りです」
「何かあったの?」
嫌な想像をしてしまう。だって仕事がたくさんあるから、しばらく休めないと言っていたのに。
「王宮への道に、大きな木が倒れていたようでして……本日もお休みされるそうです」
「……ケガはないのね」
ほっとした。台風で根本から折れた木が、隣の木を倒したらしい。兵士が撤去に乗り出すが、明日まで開通しないとか。他にも街から向かう予定だった文官が足止めを食らい、戻ったと聞いた。
「倒れた木が直撃しなくてよかったわ」
出迎えのために立ち上がり、途中で猫部屋のレオン達も誘う。玄関ホールに到着した私は、ふと今朝の出来事を思い出した。あんなに嫌がったのに、時間が経過したらヘンリック様を送り出した。それって……いえ、まさかね。
この世界には「七歳まで神の子」なんて言葉はないんだもの。私の勝手な思い込みよ。