作品タイトル不明
383.今日はお父様優先の日?
皆で美味しく夕飯を食べて、レオンはヘンリック様とお風呂に入った。どうしても一緒がいいと言い出し、ヘンリック様が頷いたから。普段は聞き分けのいい子なのに、どうしたのかしら。
ほかほかに茹って運ばれたレオンは、冷たいお水を飲んだ。一気に飲んだら咳き込むし、お腹が驚いちゃうわ。そう伝えて、一口ずつ飲んでもらう。幼い頃って、これで結構吐いちゃうのよ。予防は大事だわ。
一口ごとに「ぷはーっ」と言うのは、なぜ? どこで覚えてきたの。少し考えて、お父様だわと思い至った。コーヒー飲んでも、ぷはー! と言っていた気がする。酒飲みみたいな癖をうつされたわ。徐々にやめさせましょう。
礼儀作法の先生がついたら、絶対に注意されるもの。その前に直しておいた方がいいわ。
「レオン、ぷはーを隠せる?」
「かくしゅの?」
「そうよ。じぃじがしてるから、覚えちゃったのね。しないほうが騎士様っぽくてカッコいいわ」
「うん」
目を輝かせて一口飲み、むっと口を閉じる。尖った唇を指で押したくなるけれど、頑張っているレオンの邪魔をしてはダメ。私も我慢ね。
「上手だわ。さすが私の騎士様ね」
「うん、できゆ」
得意げなレオンが、コップを持ったまま胸を反らす。ひっくり返る前に、コップを支えた。そこへ髪を乾かしたヘンリック様が戻ってきた。
「ありがとうございます、ヘンリック様」
「ああ」
何を、は省略した。だって、本人が目の前にいるのに、レオンの入浴の手伝いにお礼を言ったり、労ったりしたら、気にしちゃうもの。楽しかった、で終わりにしたい。でも、ヘンリック様がレオンを預かってくれるから、私も安心してお風呂に入れた。お礼がぴったりよね。
「何をしていたんだ?」
「騎士様らしく、上手にお水を飲んだのよね」
「うん、ぷは、しない」
ぼかした部分まで、レオンが報告してしまった。凄いでしょ! と胸を張る。苦笑いした私を見て、察してくれたみたい。ベッドの端に腰掛け、レオンの黒髪を撫でた。
「凄いぞ、立派だ。お母様を守る騎士様だな」
「うん!」
ご機嫌のレオンを真ん中にして、ベッドに入る。川の字はこの世界では使わない表現だけど、私は好きよ。せがまれて絵本を手に取った。これは悪い王様と戦った騎士様のお話だ。声色を使い分け、丁寧に読んでいく。
王様にはお姫様がいた。彼女は騎士様が好き、一緒に暮らしたい。でも王様は、お姫様を悪魔の生贄にするの。国を荒らす悪魔と戦い、お姫様を取り戻すお話だった。途中で仲間が増えたり、逆に離脱したり、意外と波乱万丈なの。
今日は新しい仲間が増えたところで終わり。眠ってしまったレオンの頬を撫でて、本に栞を挟んだ。
「続きが気になるな」
「あら、じゃあ……特別ですよ」
ふふっと笑い、私は再び絵本を開いた。ヘンリック様に見えるよう角度を変え、最後まで読み聞かせた。照れくさいけれど、目を輝かせて冒険譚に耳を傾ける夫が愛おしいわ。