作品タイトル不明
380.感動して泣いちゃうわ
考えてみたら、音楽の先生三人は実力が高い。いくら初心者を教えるからといって、ケンプフェルト公爵家に選ばれたんだもの。三人の水準は高かった。その彼らがお手上げを表明したなら、ユリアンのピアノの腕はセミプロレベルかも。
オイゲンは母親への手紙を書いていた。昨日から取り掛かって、父親や兄の分は書き終えたという。残るは母ハンナ様だけ。ここが一番難しいでしょうね。
お父様の方は解決したのか、フランクにお礼を告げているところ。私が一緒に行くと約束したユリアーナは、お茶会のドレスを考えている様子だった。こうしてみると、趣味のことで悩むなんて贅沢だわ。
シュミット伯爵家では、こんな悩みはなかったもの。ユリアーナどころか、結婚適齢期の私もお茶会の誘いがなかった。誘われてもドレスが用意できない。お父様も領地のことで悩むより、明日の食費の心配ばかり。
エルヴィンは早く働いて、家族を養うなんて言い出す。要領のいいユリアンは、どこかで手伝いをして野菜を貰ってきたりしていた。今思えば、とんでもない。八歳前後の貴族令息が、平民の家のお手伝いに行っていた。立派だったわ。
世間では恥ずかしい行いでも、私には誇らしい。エルヴィンもユリアンも。家の手伝いを頑張ってくれたユリアーナも。この子達がいたから、私は頑張れた。
「おかぁしゃま……おこたの?」
感慨に浸っている間に、レオンが呼びかけたみたい。慌てて「怒ってないわ」と笑顔を向けた。安心した様子のレオンが後ろのヘンリック様を見上げる。二人で頷きあい、何かを差し出した。「えいっ」と掛け声勇ましく渡されて、手の中に残った手紙のような紙を見つめる。
半分に折った紙を広げ、見つめる私の目が潤んだ。レオンの描いた絵が、びっしりと埋め尽くしている。その隙間を縫うように、ヘンリック様の文字が並んだ。私達三人とシュミット家の家族、オイゲン、ランドルフ、これはルイーゼ様ね。
鮮やかな色を使い、一人ずつ表現されていた。丸や棒を組み合わせ、人っぽく描けている。この小さいのは猫達? アイ、ミア、シロ、サビーネの順番で左から並ぶ。小さな文字が追記していなければ、見落としそう。猫のそばにいるのは、フランクを始めとする使用人だ。
一番上はタイトルなのか、ヘンリック様の文字でやや大きめに記してあった。家族の肖像……こんなの、感動して泣いちゃうわ。
「おかぁしゃま、うれち?」
「すごく嬉しいわ。こんなに美人に描いてくれてありがとう。レオン、上手に描けたわね」
嬉しそうに笑顔で絨毯を転がるレオンを、穏やかな表情でヘンリック様が見守る。彼の手を握り、両手で包んだ。
「ヘンリック様も、ありがとうございます。すごく嬉しいプレゼントですわ」
立派な額に入れて飾らなくちゃね!