作品タイトル不明
373.被害の大きさではないのよ
ティール侯爵家も、すぐには動けない。我が家が混乱しているように、どの貴族家も領地の被害に右往左往していた。
「シュミット伯爵家の被害は軽微です。こちらをご確認ください」
先に被害報告が上がったのは、領地の小さなシュミット伯爵家だった。領地が王都に近かったことも手伝い、そもそも台風の直撃を免れている。それでも被害を取りまとめるのに、二週間は掛かった。
「お父様、大きな修繕は必要ですか? 今は職人の手が足りていないので……」
ケンプフェルト公爵家の領地や別邸から届いた、分厚い報告書を読む手を止める。顔を上げた部屋は、書斎の一つだった。なんでも代々の公爵夫人は、家計や領地管理の書類を、この部屋で処理したらしい。高価で重厚な机と椅子、引き出しには上質な筆記具が用意されている。
左の壁はすべて書棚になっており、整然と帳簿や報告書が並ぶ。右側は来客用なのか、立派な食器棚にカップが仕舞われた。イルゼによれば、かなり年代物で高級品ばかり。コレクションとして所有していたようだと言う。
その部屋に運び込んだ別の机で、お父様は唸った。
「いや、このくらいの被害なら職人の手が空くまで待とう」
「シュミット伯爵、よろしいでしょうか」
ここで口を挟んだのは、フランクだった。ベルントはヘンリック様の補佐として、王宮で頑張っている。筆頭公爵家の家令を務める彼は、さまざまな方面の知識が豊富だった。
「被害が大きいか小さいか、決めるのは領民でございます。直撃した領地と比べて、被害を軽く見積もるのは間違いではありませんか?」
ぴしっと指摘され、そこから対応策をいくつか提示された。まず領民が安心できるよう、今年の税の軽減を通知すること。必要な修繕箇所を洗い出し、優先順位をつけること。他にも民と情報を共有し、被害の申告や復旧を手伝ってもらうなど。
フランクの指摘は多岐に渡った。エルヴィンかお父様が領地に顔を出すのも、領民にとって安心材料になる。物的被害が少なくとも、不安は広がったはずだから。
「お父様、一度領地へ行ってらしたら?」
手元の書類から目を離し、提案してみた。エルヴィンも一緒に行ったら、いい勉強になるわ。公爵家の騎士と一緒なら安全は確保できる。領民も喜ぶと思う。
少し考えて、お父様は頷いた。
「そうだな、迷惑をかけたのも事実だし……顔を出して詫びてこよう。今は収入もあるから、領民が困っていることを助けたい。それも現地で聞かないとわからない」
フランクは満足そうに頷いたけれど、なんとなく不安なのよね。念の為、公爵家から派遣した管理人に手紙を送りましょう。父親としてのお父様はともかく、領主としてはまったく信用できないんだもの。