作品タイトル不明
372.悟らせる気はなかったのに
そつなく振る舞ったつもりだった。実際、リリーやマーサは気づかなかったし、フランク達も異変は感じていなかったように思う。でも……母を慕う息子の目は誤魔化せなかった。
「おかぁしゃま、こぁい」
「もう雷は終わりよ。お屋敷が暗いのもすぐに取ってもらうわ」
台風か、室内がいつもと違い暗いことを指摘していると思ったの。だから安心させようと笑顔で告げる。レオンは困ったような顔をした。
「そうではない。リア、お前が不安げにしているからだ」
「ああ、そうだったんですね。姉上の様子が変だと思いましたが……」
父の発言に、エルヴィンが追従する。そこで気づいた。朝食の場で、ユリアーナとユリアンが無言だったことに。ジャムを取ってくれとか、私の分よとか。騒がしい双子は無言で食事を進め、ちらちらと私の様子を伺う。
「ごめんなさい、態度に出したつもりはなかったの」
今朝の考えを引きずっている自覚はあった。お父様には気づかれるかもしれないが、弟妹やレオンは平気だと……勝手に見くびった。申し訳ないわ。
「ごめんなさいね、レオン。ちょっとだけ怖かったのよ」
「ぼく、まもゆ! おとちゃまと、にゃくそく、したの」
約束したと言い切り、私に向けて笑った。お礼を言って、守って頂戴と伝える。それから頬を擦り寄せた。
無言だったオイゲンもほっとした表情を見せる。彼の場合、双子やエルヴィンの様子が違うことを感じ取ったのでしょう。申し訳ないことをしたわ。
「奥様、ティール侯爵家より手紙が届いております」
食事の最中に持ってくるなら、まだ使者がいるのだろう。返事を貰うよう命じられたのかもしれない。フランクが目の前でナイフを入れて開封し、私に封筒ごと差し出した。
「レオン、ちょっといいかしら」
「うん、いいよ」
頭の上で封筒から便箋を出し、さっと目を通した。その間にレオンがミニトマトに挑戦している。小さな声で「がんばれ」や「そこだ、いけ」と聞こえるので、笑ってしまいそうよ。
「オイゲン、あなたも目を通して頂戴」
「あ……はい」
レオンが膝に座っているので、フランク経由で渡した。手紙の中身は、オイゲンの無事を確認するもの。長く迷惑をかけたお詫びや気遣いが綺麗な文面で綴られていた。
最後に一枚、別に添えられていた紙は、オイゲンに宛てた手紙だった。そろそろ帰ってきてくれないかと懇願する内容でしょう。宛先が違うから開かなかったが、目を通さなくてもわかる。オイゲンは目を潤ませて口元を手で覆った。
「意地を張るなよ、後悔するぞ」
親しげな口調はエルヴィンだ。真面目なあの子はいつも丁寧な口調だが、友人相手にはここまでくだけるらしい。頷くオイゲンに、ユリアンも言葉を添えた。
「会いたいって望んで、会えるのは幸せなんだからな」
母親を亡くしたユリアンの一言は重かった。ユリアーナは無言でハンカチを差し出し、なかなか受け取らないオイゲンの手に握らせた。もうすっかり家族ね。