軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370.台風が通り過ぎたら ***SIDE公爵

考えつく災害の備えはした。崩れそうな崖の報告に、住民の避難も手配している。崩れて泥に埋まった村の者は、半数以上助かったらしい。報告はここまでで、後の話は台風が終わってから届くだろう。

王宮内もさまざまな場所でドアや窓の封鎖が行われた。普段の台風なら問題ないが、今回は規模が大きい。被害も比例すると考え、大量の備蓄をかき集めた。一部の商人は渋ったが、権力を盾に黙らせる。このために権力は存在するのだから。

民の命より金や在庫を優先するなら、強制権を発動する。すべての財産が凍結され、仕事もできなくなるぞ。部下を派遣し、丁寧に説明させた。脅しと捉えたようで、すぐに備蓄が集まった。

あとで悪く言われようと構わない。この備蓄で、一人でも多くの民が飢えずに過ごせるなら……高額で売りつけられずに済むのなら、悪役になる甲斐があるというものだ。

「大丈夫かな。窓には板を打ちつけてきたけど」

「うちは近所の親戚宅に避難させた」

「あ、わかる。親族が一緒にいてくれると心強いよな」

仕事はひと段落ついた。だが降り出した豪雨で、馬は出せない。雷が鳴るのも予測できるため、外へ出る危険は冒せなかった。それでも帰りたい、家族が心配だ、皆が口にする。以前なら「そういうものか」と聞き流したが、俺も同感だった。

「公爵閣下のお屋敷も対策されましたか」

まだ迎えて一年経たない妻と、幼い息子がいるのは知られている。気遣いの質問に、俺は穏やかな声で返した。

「ああ。義父上殿や弟妹がいて、使用人も有能な者ばかりだ。……ただ、一緒にいてやりたいとは思う」

最後の本音は、小さな声で付け足すように溢れ出た。相槌を打つ部下の言葉に、まさか声に出したのかと自分で驚いたほど。自然に感情が声になっていた。

書類仕事の執務室であるため、手元を明るく保つ必要があった。ギリギリまで書類に明け暮れ、この部屋は窓の封鎖をしていなかった。がらんとした部屋を見回す。重要な書類や文具を運び出した部屋に残るのは、重厚な家具や絨毯のみ。

「では移動しましょう」

侍従長に促され、我々は廊下に出た。すぐに板を持った侍従と下男が駆け込み、板を打ち付ける音が響く。少し離れた別室は、すでに多くの文官が避難していた。いくつか客間を開放し、台風が落ち着くまで肩を寄せ合って過ごす。

「狭くて申し訳ございません」

私室を用意すると言われ、断ったのは俺自身だ。構わないと返し、譲られた椅子に座った。がたがたと窓が揺れるたび、どこからか悲鳴が漏れる。

アマーリアとレオンを思い浮かべ、俺は左手の指輪を指でなぞった。普段使いする結婚指輪は、宝石を使わない。美しい装飾の施された金細工を指で確かめ、彼女の笑顔を想像した。帰ったら、彼女を抱きしめよう。甘やかして……いや、彼女に甘やかされるのもいいな。

告白も婚約指輪の受け渡しもうまく行った。レオンを義父上殿に預けて、ゆっくり過ごしたい。台風が通り過ぎた後の過ごし方を想像するだけで、気持ちが明るくなった。なるほど、これが部下の言う「家族の支え」というやつか。すごく効果的だな。