作品タイトル不明
367.二度目の台風対策 ***SIDE公爵
土砂降りの雨で視界が悪い中、馬車を走らせた御者を労う。大急ぎで王宮内に入り、御者と侍従の部屋を手配させた。足早に歩く俺の後ろを、書類の入ったバッグを抱えたベルントが続く。
「閣下、こちらに署名を……」
「救助の準備が整いました、こちらもご確認ください」
執務室までの廊下で待ち構える文官が、次々と書類を差し出した。歩きながら目を通し、足を止めずに署名する。村の救助要請への承認、兵を動かす采配を読みながら、左手で別の書類も受け取った。支援物資の準備と、備蓄の確認も大切だ。
執務室へ入れば、さらに多くの文官が待っていた。
「緊急性の高いものから寄越せ」
命じて、一件ずつ目を通す。人命や今後の避難に関する事項を優先し、後でも間に合う書類は左へ積み上げた。彼らも事前にある程度相談していたようで、澱みなく書類が流れてくる。
「この橋は使えない。少し回り込むが、林を抜けるよう……手配しろ。ティール侯爵家の庭先? 緊急事態だ、通行を許可する」
貴族だろうが、平民だろうが関係ない。緊急時に意味不明な権利や特権を振りかざすなら叩きのめす。そう告げて許可証を発行する。貴族の護衛や私兵に絡まれても、押し通せるだけの権限を与えた。
ここまでの災害は数十年に一度だ。滅多にないが、だからこそ人々の記憶に残り、記録されてきた。以前の対応の記録を確認しながら、二度目の台風に備える。次に起きるであろう問題に先回りし、手配を行った。
「陛下からの指示書です」
侍従が運んだ書類は、若き国王が記した対策リストだった。昨夜から資料を読み込み、過去の災害を書き出す。シンプルな手法だが、時間がかかる資料だった。時系列順に、どこの山が崩れたか。落ちた橋はどこか、危険な地域への対策はどうなっているか。丁寧に拾い出してある。
「助かる。陛下によろしく伝えてくれ」
俺の隣にいた文官が、メモのような紙を一枚差し出した。
「乱雑で申し訳ありません。現在時点で手を打った策です」
俺の指示した対応を、書き取っていたようだ。指示書の代わりに、その紙が陛下へ返された。台風は必ず二度くる。それも大きな台風ほど、合間の穏やかな時間が長い。
「急げ! 次が来るぞ」
王宮の窓や扉も、突風対策で塞がれ始めた。暗くなる部屋で蝋燭の火が灯される。火災の危険を周知させ、手の空いた侍従や侍女に管理させた。
「備蓄リストはまだか!」
「届きました!!」
運ばれた備蓄の一覧に唇を噛む。想定より少ない。毎年の予算から積み立て、備蓄の買い付けに回した金はどこへ消えたのか。明らかにおかしいが、探るのは後回しだった。
「備蓄が足りない、供出させろ」
貴族家に通達が出されるも、備蓄が集まるのは二度目の台風が通り過ぎた後になる。いつも甚大な被害をもたらすのは、二度目の台風だった。風が強くなったのか、窓ががたがたと音を立てる。
まだ時間はある。もう少し持ち堪えてくれ。天に祈る気持ちで、次の指示を出した。