作品タイトル不明
365.おとちゃまは、どこ?
ヘンリック様は王宮に到着したのだろう。もし途中で何かあれば、王宮側からも早馬が届く。知らせがないのは、無事の証拠……そう思っても、不安は尽きない。
「おと、ちゃま……どこ?」
「お仕事に行ったの。大切なお役目があるから、ここで待っていましょうね」
はしゃぎ疲れて、レオンは目を擦り始める。ベッドへ運んで横たえるも、ぐずり出した。
「やぁ! おとちゃま、は?」
「お母様だけではダメかしら」
「ん、ううん……でも、やっ」
私がいてもぐずるのは珍しい。それだけヘンリック様と眠ることに慣れたんだわ。いい傾向じゃない。微笑ましく思う反面、わずかばかり寂しい。まだ早いのに、いずれ来る子離れを想像しちゃったわ。
「おかぁしゃま、こぁい?」
「レオンが守ってくれるから、平気よ」
「うん」
想像で泣きたくなったのを察したように、レオンが心配を向けた。その気持ちが嬉しくて、笑顔で平気と繰り返す。ようやく落ち着いたレオンが目を閉じ、私も横になった。時折り、遠くで雷が光っているのだろう。雨の音以外聞こえないが、カーテンが明るくなる。
端から漏れる光をぼんやりと数えた。一つ、二つ……やがて私も眠りの中に落ちていく。ゴロゴロと鳴った音が現実なのか、夢だったのか。腕の中のレオンを抱きしめて隠した。この子は私の宝だから、奪わないで。
夜中に目が覚める回数が多く、あまり眠った気がしない。ぼんやりしながら欠伸を噛み殺し、まだ夢の中にいる義息子を見つめた。どうやら眠れたみたいね。
侍女が起こしに来るのはまだ先なので、もう一度欠伸をする。今度は噛み殺さず、手で覆った。今から寝たら、絶対に寝過ごしちゃう。我慢しなきゃ……そう思うほどに眠さが増していく。早く起こしに来て! 他力本願だけど、心で叫んだ。
願いが通じたのか、ノックの音がする。
「どうぞ」
入室を許可すれば、イルゼだった。いつもはリリーかマーサなのに。身を起こせば、一通の手紙を運んできた。
「おはようございます。王宮の旦那様から手紙が届いております」
聞けば、仕事が大量に舞い込んだので、御者に手紙を持たせて帰したと。そんなに忙しくなるなんて。無理をしなければいいけれど……ただ、王宮まで無事に着いたことは安心した。御者をゆっくり休ませるよう伝え、手紙を開封する。
身を起こした私の動きで、しがみついたレオンが目を開けた。何度も瞬きし、目を擦ろうとしたので止める。すぐにリリーが入室し、顔を洗うお湯とタオルを用意された。身支度を任せ、手紙に目を通す。
不安そうなイルゼにも見えるよう、手紙を膝の上に置いて読んだ。馬車の中に雨が吹き込むほど大変だったこと、到着後すぐに新たな災害の情報が入ったこと。しばらくは対応で動けなくなること。心配しないで屋敷で安全に過ごすように、と。
四つの内容を繰り返し確認し、手紙を封筒に戻した。専用の革封筒に入れて運んでも、ほんのり湿っている。それほど激しい雨だった。