軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364.不安な夜は少しだけ賑やかに

雷の音は遠ざかり、今度は雨の音が激しさを増す。激しく窓を叩く雨粒は大きく、雹が降っているかと錯覚するほどだった。

泊まり込みになる最悪の事態も想定し、着替えをバッグに詰めてベルントが運ぶ。濡れないよう、御者台ではなく馬車の中に積み込んだ。雨用の外套を纏った夫を、玄関まで見送る。

「気をつけて。どうか無事に、すべてが落ち着きますように」

祈るような挨拶に、ヘンリック様は笑って頬に口付けた。ぴょんぴょんと跳ねて、僕も! と主張するレオンも額にキスをもらった。

「いってらっちゃ、おとぉちゃま」

頑張ってゆっくり挨拶するレオンに「お母様を任せたぞ」と微笑むヘンリック様。背を向けて馬車に乗り込む姿を、じっと見守った。

「義兄上、お気をつけて」

雷の音が遠ざかり、エルヴィンはようやく顔色が戻ってきた。双子やオイゲンも似た言葉で挨拶する。

「ヘンリック殿を頼むぞ」

同行するベルントに声をかけたお父様に、執事はしっかりと目を見て一礼した。馬車がゆっくり出て行き、いつもより長い時間見送る。雷の音が消えても、馬が怯えているらしい。宥めてゆっくり進むため、到着まで時間がかかりそうだった。

「今夜は少しだけ夜更かししましょうか」

不謹慎なようだけれど、荒天で不安になっている。離れまで帰るのも無理そうなので、本邸に泊まってもらう手配をした。公爵邸の敷地内でも移動を躊躇うのに、大丈夫かしら。

見上げた空はまだ黒く、星が見える様子はない。低い位置に垂れ込めた雲は重そうだった。たっぷりと水を吸った綿のよう。固まって移動し、途中で猫部屋を覗いた。

「アイ、ミア、シロ、サビーネ……こんなところに」

本棚を改造した猫用のタワーは、下部の引き出しを利用して出入り口をつけた。本棚の板を抜いて、引き出しへ飛び込めるようにしたの。上の棚も、あちこちに丸い穴を開け、上下に移動できるよう工夫した。その引き出し部分に、猫達がぎゅうぎゅうに詰まっている。

探しても見当たらないと思ったら、こんなところに。母猫のドーナツに、子猫が突き刺さったような形で、丸くなって眠っていた。覗いて「かぁいい」とレオンが笑う。皆でしばらく眺めてから、静かに引き出しを戻した。このまま朝まで大丈夫そうね。

絨毯の部屋でいつもより長く話し、お父様はワインを二杯も飲んだ。雨が少し小降りになったところで、部屋に引き上げる。いつもなら寝ている時間なのに、興奮したレオンは止まらない。お風呂で大騒ぎし、出てきて走り回った。

「奥様、どういたしましょう」

「そのうち疲れて眠るでしょう。今夜はもういいわ」

マーサ達を下がらせ、私はレオンが落ち着くまで待った。窓を叩く雨粒はかなり大人しくなり、ぽつぽつと小さな音がするだけ。代わりに風が強くなってきた。これって大型台風かしらね。