軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

362.雷は怖くないのよ、レオン

降りそうで降らず、ぎりぎり天気は持ち堪えた。それもヘンリック様が帰宅する頃には、堪え切れず空が泣き出す。大粒の雨が激しい音を立てて降り注ぎ、屋根やガラス窓に穴が開くかと心配になる程。

馬車から玄関までの僅かな距離も、ぎりぎりまで御者が寄せた。それでも斜めに吹き込む雨で濡れている。イルゼがタオルを差し出し、ヘンリック様は雨の滴る黒髪を拭いた。

「すごい雨ですわね。お疲れ様でした」

微笑んで迎える。バッグはベルントが上着で庇って守り、御者は雨に怯える馬を 厩(うまや) へ戻す。これではもう何もできないわね。

「事故があれば、王宮から呼び出される可能性がある」

濡れた上着を脱いだヘンリック様が、心配そうに外を見つめた。ガラス窓の向こう側は、大きな雷の音も響く。びくりと肩を揺らしたレオンが、くしゃりと顔を歪めた。音が怖いのね。抱き上げて撫でると、きゅっとしがみついた。

「ヘンリック様はお風呂に入って、着替えてください。食事はその後にしましょう」

「そうだな」

濡れた服は体温を奪うし、髪も冷たいでしょう。付き添おうとするベルントを呼び止め、着替えるよう命じた。名目は執事らしい身なりを整えること、でも気づいたみたい。風邪を引いてしまうから、早く乾かしたほうがいいわ。一緒に帰ったから、同じように濡れているんだもの。

一礼して下がるベルントを見送り、侍従が代わりに手伝いに向かった。

「奥様も、公爵夫人らしい振る舞いが身についたと思えば……」

後半を濁したフランクに、私はレオンと頬をくっ付けて笑った。

「仕方ないわ、これが私だもの」

いきなり変わらないし、いまさら変えられない。貴族夫人らしくない言動があっても、ケンプフェルト公爵家の名が守ってくれる。いつからか、そう思い始めた。それだけフォンの称号は重く、私は責任ある立場なのだと。

公爵家当主のヘンリック様を支え、跡取りのレオンを育て上げる。私の人生はこのためにあるのだと、言い切っても悔いはなかった。

ゴロゴロゴロ……空が唸るたび、レオンが悲鳴をあげる。小さな愛らしい声が耳元で聞こえるたび、背中をぽんぽんと叩いた。

「いいことを教えてあげるわ。きっと雷も怖くなくなるわよ」

「こあく、なくなく?」

私は頭の中で、さまざまな話からエピソードをもらい……即興で物語を作った。雷が大きな音なのは、大切な我が子を探すための合図なのだと。遊びに行って夢中になり、帰ってこない我が子を呼ぶ神様の声なのよ。お母様がレオンを呼ぶ時と同じね。

最後にレオンと紐付けて締め括れば、目を見開いて外へ目をやる。ぴかっと光る稲妻に見惚れ、続いて大きな音が降ってくる。びくりと肩が揺れたものの、レオンは顔を伏せなかった。

「もう平気?」

「うん、はやく……みちゅかる、といいね」

「レオンは優しい子ね。早く見つかるよう、お祈りしてご飯にしましょうか」

食堂では、エルヴィンも耳を塞いでいた。この子も雷がダメだったわね。そんなエルヴィンを、オイゲンが庇うように抱きしめる。でも震えているわ。もしかして、オイゲンも雷はダメ? 双子もお父様も全然平気なのよね。微笑ましく見守った。